「代償運動」って本当に悪い?(その3)

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「代償運動」って本当に悪い?(その3)


 セラピストが「代償運動」という言葉を問題として指摘するとき・・・・セラピストがその問題を解決できる時はなんの問題もない。しかし問題解決できない時には、問題だけを指摘するだけである。つまり「代償運動」は患者さんを苦しめるは「悪魔のささやき」となるかもしれない。


 たとえば片麻痺患者さんは苦労して分回し歩行というスキルによって漸く歩けるようになったのに、「その歩き方は良くない。間違っている」などとセラピストから指摘される。そしてセラピストの治療なるものに従うもののいつまで経っても麻痺は治らず、分回し自体が消えることはないからだ。


 患者さんは頑張っても健常者の様に歩けないので、努力が足りないと自分を責めたりする。反省的なセラピストは自分の力が足りないと自分を責めたりもする。そうでもないセラピストは「患者の努力が足りない」とか「私の言うことを聞かないからだ」と患者さんやその家族を責めたりする・・・・やれやれ、随分こんな場面を見てきた。


 この問題を解決するには、まず悪い運動を意味する「代償運動」という言葉を使わないことだ。代わりにCAMRでは、障害などの後に現れる運動の多くは、「自律的問題解決の運動スキル」と呼んでいる。これは長いので普通、「問題解決スキル」と略す。


 なぜなら人の運動システムでは、麻痺や痛みなどの運動問題によって必要な生活課題が達成できなくなると、自律的・自動的に何とか問題を解決して必要な課題を達成しようとする本質的な性質が備わっているからだ。


 つまり前々回見たような「足関節が硬い」場合は自律的に「膝でバランスをとる問題解決スキル」を生み出す。また「片麻痺がある」場合は、「分回しという問題解決スキル」を生み出して、歩くという課題を達成している。


 麻痺や可動域低下などの運動問題を自律的に解決して、課題を達成するための運動スキルであるので、本来的に悪い運動ではない。これは人の運動システムが自然に備えている課題達成のための能力なのである。


 たとえば右膝を打撲して荷重すると痛い。そうすると右脚に荷重しないで移動する様々な問題解決スキルが生まれる。左脚のケンケンや右脚への荷重時間が短い跛行などのスキルも見られる。また左脚はすり足で振り出して右脚の負担を小さくして痛みを軽くするかもしれない。あるいは右下肢荷重時には両手で家具や手すりを持って痛みを生じないように移動するかもしれない。いずれも右膝の痛みを軽くして移動するための問題解決スキルである。


 上記の場合、いずれの問題解決スキルも荷重に右脚をできるだけ「使わない」ようにする意図があるので、CAMRでは「不使用の問題解決」と分類される。 腰痛ヘルニアで激痛がある場合、体を硬く棒のようにして痛みを小さくするように歩かれる。これは体全体を硬くするため「外骨格系問題解決」と分類される。 このようにCAMRでは全部で6個の問題解決スキルが分類されている(詳しくは「リハビリのシステム論-生活課題達成力の改善(前・後編)」西尾幸敏を参考にしてください)


 つまりこれまで「代償運動」と呼ばれていた運動は、「問題解決スキル」と呼んだらどうか。本来的に問題解決をしようとしているので「分回し歩行」は悪い運動ではない。努力の結晶である。患者さんもセラピストもそう評価したらどうか。


 ただし、問題解決スキルは全てが良い結果になるわけではない。それらの問題解決は、応急的なその場しのぎであって、そのために新たな問題を生み出すこともある。その新たな問題を生み出すような問題解決スキルは「偽(にせ)解決」と呼ばれる。 次回はこの「偽解決」について検討しよう!(その4に続く)


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