「代償運動」って本当に悪い?(その4)

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「代償運動」って本当に悪い?(その4)


 これまでのまとめ。「代償運動」は「本来の正しい運動ではないので修正するべき」というイメージである。基本的に悪い運動であると考えてしまう。それでは運動システムの作動が目標としているものを表していない。


 そうではなく障害後に生じる運動は、「運動システムが課題達成のために自律的に問題解決をするための運動スキル」である。だから『問題解決スキル』」という言葉で置き換えて使ったらどうかと提案した。


 そうすると「人の運動システムって、機械と違って運動問題が起きて必要な課題達成が困難になると、自律的に問題解決を図って何とか課題達成しようとするんだな!機械とは違うんだな!」ということが自然に理解できるようになるはずだ。「ああ、やっぱり人の運動システムって素晴らしい!」と感じるのではないか。


 ただしこれだけでは上手く説明できないところもある。このシリーズで最初に挙げたような、「足部・足関節が硬くて膝がバランスをとるために過剰に働いて膝が痛む」場合だ。確かに「膝がバランスをとるために働く」部分は問題解決になっているのだが、それが「過剰に働く」によって「膝の痛み」という新たな問題を生み出している。


 CAMRでは、このような「新たな問題を生み出す」問題解決のことを「偽(にせ)解決」と呼ぶ。偽解決はもともと家族療法などの心理療法で使われる言葉で、私たちの身の回りにも溢れている現象である。


 たとえば圧迫骨折のおじいちゃんは「痛うて動けん。痛いのが治ったら動くわい」という問題解決を図って痛みが消えるまで寝て過ごそうとするが、いつのまにか廃用という問題が生じて動けなくなってしまう。


 学校でイジメの問題が起きると、先生がみんなに厳重に注意する、あるいはみんなを叱る。そうすると「イジメの潜在化」という新しい問題を生み出す。


 政治家は「内容についてはこれから様々の議論を尽くす」とその場しのぎに答えるが(特定の政治家のことではありません(^^;))、結局解決を先送りにし、手遅れになってより困難な問題を生み出す。


 つまり一見問題解決には見えるのだが、新たな問題を生み出して、より問題を複雑、あるいは悪化させ、解決をより困難にするようなものが「偽解決」と呼ばれるわけだ。


 人の運動システムが自律的に行う問題解決にももちろん「偽解決」が混じっている。というのも運動システムの自律的問題解決は、筋力などの運動リソースが失われた中で、あり合わせのものを使って何とか問題解決を試みている。必ずしも上手く行かないことも多いのである。


 そうするとセラピストの重要な役割の一つは、患者さんの運動システムが自律的に生み出した問題解決スキルが、適切な問題解決の状態を生み出しているかあるいは偽解決なのかをまず見分けることである。そしてそれが解決可能なものかを見分けることが重要である。


 通常は運動問題が生じたその後で、行為者の運動システムが自律的に選択した解決策なので修正可能なことも多い。そうすると上手く偽解決の状態を、問題解決の状態に近づけることができるわけだ。 詳しくは次回に。(その5に続く)


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