スポーツから学ぶ運動システム(その9)

目安時間:約 4分

スポーツから学ぶ運動システム(その9)


 一方野球の打撃を見てみると、運動はシンプルでもその状況はより多様であり、変動性も高い競技である。


 物理的環境だけを見ても、温度や明るさ、風力や風向もいつも異なっていて一試合の中でも変化することは珍しくない。打席に立っているとほこりが舞い、虫がまとわりつく。強烈に太陽が射したと思うと雲が影を落とす。小雨交じりの雨が降ると思えば強風を伴って大粒の雨が降る・・・・


 打者はバットという道具を操作する。打者は両足、あるいは片脚で安定した姿勢を作り、ボールを待つ。打撃を運動課題としてみると、「来た球を打つ」に比べて「来た球の芯を的確に捉えて打つ」となると格段に難しい運動課題になる。 さらにそのボールたるや投手が打たれまいとして、毎回、球速や回転、内外高低のコースや球種を変えて投げ込んでくるので、一球毎に異なっているのである。一瞬一瞬にどうするべきかという選択肢がとても多いのである。裏を掻いたり掻かれたりと、相手バッテリーと打者との心理戦がある。


 野手も毎回異なった場所に守っていて、守備範囲の広さや守備技能の巧拙もあり、風に流されることもあり、どこにどのように飛ぶかで安打になるかどうかが変わってくる。地面の凹凸で不規則に撥ねて、ボテボテのあたりが内野安打になることもある。かなり偶然任せのところもある競技なのである。まあ、ここが面白いところでもあるが。


 特に草野球レベルではひどいヤジもある。相手の身体的特徴を面白おかしくからかう輩がいる。草野球では「ヤジ大魔王」などと呼ばれて、「俺はヤジが上手い。センスが良い」などと調子にのっている人物までいて、ひどいものである。心理的作戦と言えばそれまでだが、スポーツでもあるので常識をわきまえて欲しい・・・ごめんなさい、つい昔を思い出して私情が入ってしまった(^^;)まあ、ヤジは脇へ置いといて・・・・


 結局野球は状況の多様性と変動性の高さのために課題達成が難しくなる競技である。


 これらのことから言えるのは、人の運動はその生まれる状況とは切り離すことはできないと言うことである。どんな簡単な動きも、多くの選択肢や突然変化する状況に出会うと、滑らかさや素早さを失い停止してしまうこともある。


 転倒という問題に出会うと、身体機能、つまり筋力や柔軟性、感覚、体力、バランスなどの身体能力の低下だけに原因を求める傾向がしばしば見られるが、まずは状況性という基本的な視点にも注意を配る必要があるのである。(その10に続く)


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