陽性徴候(特に痙縮)などに関する疑問

目安時間:約 4分

 約1世紀前にイギリスの神経生理学者ジャクソンは、階層型理論というアイデアを提案した。この階層型理論の簡単なポイントは、以下の通り。
①中枢神経系は進化的に階層の構造をしている
②上位中枢は大脳皮質(特に前頭葉)など。意識的行動や思考、判断、創造性などを司る。また下位・中位の中枢をコントロール・統合する
③中位中枢は、大脳皮質下の脳幹・大脳基底核など。運動制御や自律神経系のコントロールを行う
④下位中枢は脊髄・延髄レベル(最も原始的な中枢)など。生命維持や基本的な反射等を司る
⑤上位中枢が損傷すると、下位中枢への活動のコントロール・抑制と統合が失われて原始的な反射や単純な反射などが優位に現れるようになる。痙縮は伸張反射の亢進状態などと説明される
 このアイデアは現代でも主流であり、国家試験などでもこの考え方を正解としている。学校では国家試験に合格するために、これを正解というよりはむしろ真実として教えてしまうのでいざ臨床で脳性運動障害の患者さんに接すると以下のような様々な疑問を感じてしまう事がある。
①脳性麻痺の赤ちゃんは生まれたときは低緊張だが、徐々に筋の硬さ(痙縮)や原始反射が見られるようになる。脳卒中も発症直後は低緊張だが、徐々に痙縮や共同運動が見られるようになる。この陽性徴候(痙縮、原始反射の出現、共同運動など)が弛緩状態に遅れて出てくるのはなぜか?
②伸張反射の過活動によって痙縮が現れると言うが、実際には多くの患者さんで特に伸張反射の過活動は見られない。むしろ活動性の見られない硬さが多い。それで拘縮かと思っていると上田法などの徒手療法で可動域が広がるのでやはり収縮していたのか、と驚くことがある
③伸張反射の亢進なら神経活動が伴うので、疲労が見られ減弱するはずだが、硬さが何日もそれ以上も継続している。伸張反射の過活動では説明できないのではないか?
④お風呂に入るなどして温めると緊張が解けて柔らかくなる。お風呂に入るなどして温めると上位中枢の抑制コントロールが回復するとでも言うのか?(^^;)それとも筋の粘弾性の低下?
⑤体温程度の温度のプールに入っても痙縮は緩む。むしろ重力が関係しているのでは?
⑥陰性徴候・陽性徴候のうち、陽性徴候だけが徒手療法で改善するのはおかしいではないか。どちらも症状だとしたら、どうして陽性徴候だけが改善するのか?
⑦筋の痙縮で硬いと歩けたりするが、ボトックスや上田法などで硬さが緩むと歩けなくなる。逆に適度に硬さが取れると動きが滑らかに速く、力強くなることもある。同じ痙縮の改善で矛盾した現象が見られる。これは伸張反射の亢進で説明できるか?
⑧Dietzらやその他の研究では、足関節の可動域がある子どもや成人片麻痺の方の尖足歩行中の下腿三頭筋の筋電図を調べると筋電図活動がほとんど起きていない例が報告されている。どういうことか?
 等と実に多くの疑問が湧いてくるものである。
 考えてみればジャクソンの階層型理論は、約1世紀前の仮説に過ぎないので未だにそれが主流の考え方であるというのがむしろおかしなことである。この仮説は間違っているのではないか。様々な現象を矛盾なく説明できないのではないか。


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