今回はまず上杉謙信の戦い方を1つ紹介します。とても刺激的で、リハビリの参考になります。
上杉謙信は「毘沙門天の生まれ変わり」とか「鬼神」と讃えられる戦国時代の名将です。彼が数えで15歳の頃は景虎と呼ばれていました。景虎は15歳の冬に800人の兵士を率いて戦います。敵の兵士数は圧倒的に多いことが分かっています。
そこで物見を出して敵の様子を探り、地形を見るなど様々な環境・状況を観察して回ります。戦(いくさ)前にはひどく冷え込み、雪も降り始めていました。非常に冷たい風が吹きすさび、降った雪は根雪になるだろうと予想されました。
彼は川底が深めの場所の片側に陣を張り、敵を待ち受けます。
さて敵軍が徐々に対岸に現れます。総勢6000人以上!なんと景虎軍の8倍の人数です。敵軍は一斉に鬨(とき)の声を上げ、貝や太鼓をどっと打ち鳴らします。景虎軍はそれを見、すさまじい音を聞き、色を失い動揺します。
その様子を見た敵軍は「やれ敵どもは萎縮しておるわ。今がチャンスじゃ!敵どもを踏みつぶしてしまえ!」と先を争って川に入ってきます。
一方景虎は何もしません。回りの大将や旗本たちは焦って景虎に進言します。「敵軍が川を渡ってしまうとますます相手の士気上がり、我が軍の士気ますます下がりまするぞ。今から打って出て川の中程で戦い、川を渡ってくるのをなんとか食い止めましょうぞ!」
それに対して景虎は、「わしが合図するまで動くでない。たき火に当たるなり、酒を飲むなりしてゆっくりしておけ」などとのんきなことを言います・・・
さて、そのうちに敵軍のほとんどが川の中に入り、さらに1/3あまりが川の中からこちらの岸に渡ってきました。しかし冷たい風に吹かれ、深く冷たい川の中を渡って来るうちに、手足が凍えきったようです。動作がひどく鈍くなり、武器を取り落としたりしています。
それを見た景虎は豹変します。「かかれ!かかれ!かかれ!」と激しく叫び、采配をふるいます。そして敵軍の兵は削り取られ、あるいは川の中に追い落とされてしまいました。まあ、激しい戦いも局所的に起きたようですが最後は敵軍総崩れとなり逃げ出しました。
「皆のもの、勝ち鬨(どき)じゃ、えいえい、オー!」めでたし、めでたし、景虎、15の冬であった・・・・(『天と地と』海音寺潮五郎著より簡単にまとめたもの)
景虎の戦略が見事にはまった訳です。景虎は勝つために広い視点から環境・状況を探りました。自分が戦いに利用できる手持ちのリソース(資源)は800人の兵士。対して敵は6000人以上。まともにやり合えば話になりません。そこで彼は戦いに利用できるリソースを環境内に探します。そして深い川とそこを流れる冷たい水、そして吹きすさぶ冷たい風雪などを戦いのリソースとして利用したのです。
そして味方はゆっくり休ませます。敵軍の数と気勢に味方が萎縮しますが、その様子さえ敵を渡河に誘い出すためのリソースとして利用してしまいます。
敵は勢いよく川を渡ったものの、寒さに凍え、まともに戦う能力を低下させてしまいました。後は800人の気力・体力の充実した兵士で、岸に上がったまともに戦えない2000人をやっつけ、川の中に追い落とし、勝利を達成したのです。
敵軍の将は兵の数と士気の高さだけに頼って単純な力押しをしたのです。景虎は逆に、広い視点で利用可能なリソースを見つけてその利用方法を工夫し、少ない兵で勝利をものにしたわけです。
実はこの戦略はリハビリでもそのまま応用できます。ただリハビリでは「『戦略』、つまり戦う計画・作戦」と言うと変な感じなので「『治療方略』、治療のための計画・作戦」と言い換えます。
そしてCAMRというのは実は治療方略の体系なのです。
たとえば脳卒中を従来のリハビリはどんな視点で見ていたかを考えると、主に「障害」だけに焦点を当てていました。障害を理解すれば、「良いリハビリができる」と考えていたわけです。
脳卒中の場合、伸張反射の亢進など強い陽性徴候と筋力や随意性の低下などの陰性徴候が現れます。それで「陽性徴候は抑制して、陰性徴候は促通しよう」という治療方略が自然に、単純に生まれてくるのです。(ただこの陽性徴候・陰性徴候のアイデアは約1世紀前にJacksonが提案した仮説に過ぎないものです。現在もこの古い仮説に従って治療方略を立てているのです)
これは勝敗を「兵力」だけで考えていた敵将の考えに似ています。おまけに有名な治療技術など身につけると単純にそれで押し込むだけのワンパターンの治療方略になりやすい(^^;)
CAMRでは、障害だけでなく、人の運動システムの作動の特徴や環境や変化する状況、患者さんの気持ちなどにも注意を払います。運動はそれらの相互作用から生まれると考えるからです。
景虎が学んだ孫氏の兵法も「勝敗は様々な要素の相互作用から決まってくる」と考えます。この「様々な要素の相互作用から生まれる」と考えるのがシステム論のポイントです。CAMRはこのシステム論のアイデアを基に生まれています。
「より良い運動変化を生み出すには?」と考えるところからCAMRは始まります。そのために「人の運動システムはどんなものか、どんな作動の特徴があるか、環境との関係はどうか、状況変化にどう対応するか、障害はどんな状況なのか」といったことを考えて、治療方略を練っていきます。CAMRはそのような治療方略の体系なのです。
まあ、答えは簡単には見つかりません。リハビリは元々難しいものです。もちろん慣れてくるとうまくいくことも増えてきますが、いつまで経っても新奇で困難な問題に出会います。上手く行かないときも多く、苦労も多いでしょう。しかし、それだけにうまく行った時の喜びは大きく、リハビリに生き甲斐を感じることもありますv(^^)だから頑張りましょう!















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