毎回5分で理解する「要素還元論」と「システム論」(その3)

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毎回5分で理解する「要素還元論」と「システム論」(その3)


 さて今回は、システム論では障害はどのように理解されるか説明してみます。


 システム論を基に日本で生まれたCAMR(カムルと言います。Contextual Approach for Medical Rehabilitationの略。和名は医療的リハビリテーションのための状況的アプローチ)では、運動システムをその作動の特徴で理解します。


 たとえば人の運動システムには「状況性」という作動上の特徴があります。これはたとえば歩行を見ると、普通の床面ではその人らしい様子で歩きますが、氷の上ではヨチヨチと小刻みに歩きます。水溜まりでは濡れないようにつま先立ちで浅いところを探しながら歩きます。狭い場所は横向きに歩きます。急な階段を上がるときは手を軽くついてバランスをとったりします。


 つまり人の歩行は状況に合わせて様々に形を変えて歩行という機能を維持するような作動の性質を持っていて、これをCAMRでは「状況性」と呼びます。健常者では当たり前の作動の性質です。


 この「状況性」という性質を可能にしているのは、人の運動システムの構造が「運動の形を無限に生み出し、変化させることができる」からです。CAMRでは、このような構造を「豊富な運動リソースを持ち、豊富な運動リソースと多彩で、柔軟で創造的に生み出される運動スキル創出力を持つ」と表現します。


 運動リソースとは運動に利用され、あるいは運動に影響する資源のことで、身体そのものや筋力、柔軟性、痛みなど身体の持つ性質である「身体リソース」、環境内にある大地や構造物、人工物などのものや環境の持つ重力や明るさ、温度などの性質は「環境リソース」と呼ばれます。


 また身体が環境内のものや性質に出会った時に生まれる意味や価値などの情報を「情報リソース」と呼びます。たとえば進む先に高さ60センチの段差があります。見たときに「手を使わずに踏み上がれる」と思えば手を使わずに踏み上がるでしょうし、「手が必要」と思えば手を使って上がります。つまりその情報リソースによって課題達成の運動あるいはやり方(運動スキル)が導かれているわけです。


 健常な人では筋力や柔軟性、体力などの身体リソースが豊富です。そのために環境内の様々な起伏や明るさや温度の中でも適応的に動けるし、環境内の様々な構造物やものを利用・操作できます。つまり多くの環境リソースを利用できるのです。運動スキルとは「課題達成のための運動リソースの用い方」です。身体と環境との関係を意味する情報リソースが適切であれば、適切な運動スキルが多様に柔軟に、その時、その場で創造的に生み出されてきます。


 これによって様々な状況の中で、必要な生活課題を色々なやり方で達成することが可能になります。


 機械では予め運動の仕方は設計者の意図によって決まっています。またその通りにしか動きません。もし部品が壊れると、それを直して「元通りにする」しか修理方法はないわけです。


 しかし人では予めやり方は決まっていないのです。その時の状況、たとえば体調が悪いとか、いつも使っている道具がないとかであっても、何とかできるようにやり方を変え、ある中から利用可能な他の道具を利用して課題を達成する方法、運動スキルをその時、その場で生み出すことができるのです。ここが人の運動システムの一番の特徴と言えるでしょう。


 健常者は豊富な運動リソースと創造的な運動スキルの創出力を持っているので、必要な日常生活課題の達成であまり困ることはありません。CAMRでは、健常者のこのような能力を「生活課題達成力」と呼びます。


 CAMRでは障害を持つとは「生活課題達成力が低下、あるいは消失した状態」と考えています。従ってリハビリの目的は、「生活課題達成力の維持・改善」と考えています。


 CAMRから見た障害については次回詳しく述べます。(その4に続く)


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