毎回5分で理解する「要素還元論」と「システム論」(その7)
CAMRでは「自律的問題解決」は6種類に分類していますが、今回からそれらの一つ一つについての説明をします。(6分類は前回の投稿を参照してください)
まず「自律的問題解決」の6分類の最初は「探索利用スキル」です。
探索利用スキルというのは、人の運動システムのもっとも基本的な課題達成方法であり、同時に問題解決方法です。これは以下のようにシンブルに表現できます。
「人の運動システムは必要な課題を達成しようとするとき、身体の内外に利用可能な運動リソースを探索し、その運動リソースの利用方法である運動スキルを生み出し、修正しながら課題を達成する」
このような基本的な方法を「探索利用スキル」と呼びます。
つまり人の運動システムの作動の主な目的は人にとって必要な課題を達成することであり、その目的を達成するためのもっとも基本的な作動で、常に繰り返されている作動です。
従ってなにか問題が起きたときも、この作動が行われることになります。問題解決をして必要な課題を達成するために、身体の内外に利用可能な運動リソースを探索し、その利用方法である運動スキルを生み出して課題達成しようとします。
たとえば片麻痺後に患側下肢が振り出せなくなると、利用可能な健側下肢や体幹を使って色々と試行錯誤します。すると健側へ重心移動して体幹の伸展によって患側下肢を振り出すという「分回し歩行」という運動スキルが生まれます。
セラピストがT-caneという環境リソースを提供すると、それを健側上肢で利用して基底面を広げ、更に健側への重心移動が安定して大きく、素早く行われるようになるので、分回し歩行の運動スキルは更に効率的になります。
同じく片麻痺後に半身に麻痺が起きると麻痺のある手でものを操作できなくなります。菓子パンの入った袋を両手で開けようとすると麻痺の手は動きません。そこで利用可能な健側の手で袋を持ち、袋の反対を歯で噛んで袋を開けるという運動スキルを生み出すわけです。
私たちも踏み固められた雪面では重心移動を小さくするために歩幅を小さく小刻みに運びます。また靴底の滑りやすさを感じて、靴底を雪面に対して垂直に下ろすという運動スキルを生み出して安全に歩くという問題解決を図ります。
水溜まりを渡るときは、靴が水浸しにならないように浅いところを見つけてはつま先立ちになって着地し、蹴り出して大きく跨ぐような運動スキルが生まれて問題解決を図ります。
片側の上肢麻痺のある方が、健側の手でコップを持ち閉まったドアの前に立ちます。このままコップを持っていたのではドアノブが開けられません。ドアの反対に窓の桟があって何とかおけそうなので置いてみます。安定して置けるのを確かめて、空いた健側の手でドアノブを開けてその後再びカップを持って部屋に入るという課題を達成できます。
背中が痒いのですが、その部分に手が届きません。周りを見ると新聞広告があるのでそれを硬く丸めて棒を作り背中を掻いて課題達成します。
うちの親父は片麻痺になりました。退院後うちに帰ったときに古い農家の造りで廊下の両側は障子戸です。親父は軽い基礎定位障害があったので「手すりをつけようか」と聞いたところ、親父はしばらく考えて「いや、いい」と言い、やおら障子戸の格子の太い部分の上の紙をバリッと破って手を突っ込んだのです。そして障子戸の桟を握って押して移動する手すりとして歩き始めました。
僕は親父と相談して、不要の戸を外し、滑りが良くなるようにロウソクを塗ったりカンナで戸の上部を削ったりして使い易くしました。
今思うと、親父は軽い基礎定位障害でバランスが少し悪いだけで、支持性が悪いわけではないのです。だから体重をかけれるようなしっかりした手すりが必要なのではなく、体のバランスを安定させる程度の軽い支持があれば良かったわけです。
親父はそんなことを知ってか知らずか、いや、理由さえ知る必要もないのでしょう、その後もその「移動手すり」を使ってよくトイレに行っていました。 こんなふうに人は日常に現れる達成するべき課題、解決するべき問題に対して常に身体の内外に利用可能な運動リソース(身体リソースや環境リソース、情報リソース)を探索し、その利用方法である運動スキルを生み出しては問題解決して、課題達成をしているのです。
そのやり方全般をCAMRでは「探索利用スキル」と呼んでいるわけです。(その8に続く)
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