リハビリのファースト・フード化について考える
世の中全体がスピードと効率に価値を求めているのだろう。無駄を避けるマニュアルと商品のメニュー化によってファースト・フード店はスピードと効率を達成するための代表的なシステムの1つに違いない。
それが良いとか悪いとか言うつもりは全くない。食事を摂るという行為の選択に多様性があるのである。手早く済ませたい状況もあれば、ゆっくりと味わいたい時もある。単に腹を満たしたい人もいれば、食事そのものを味わいたい人もいる。それぞれの立場、状況と必要に応じて各人が使い分ければ良いことである。ただ社会全体としては、スピードと効率は求められる傾向にある。
もちろんこのスピード化と効率化はリハビリ分野でも求められている。一番大きな理由は経済的なものだろう。1つは医療費の節約であり、もう一つはリハビリ期間を短くして早く社会復帰・家庭復帰を促す、つまり時間の節約の必要があるからだ。社会にとっても個人にとっても重要なところだ。つまりリハビリも効率を考えれば、ファースト・フード店のシステムを真似てマニュアル化・メニュー化して行くのは自然である。
ただリハビリの価値は多様化せずに、このスピード化・効率化だけに向かうだろう。「リハビリを楽しもう」とか「リハビリによって新しい人生の意味を生み出そう」などという価値観は社会には不要であり、これからもリハビリにはひたすらスピード化、効率化が求められるだろう。
こうして「このときはこれをする」、「この場合はこれをしてはいけない」などとマニュアルに従って仕事をする傾向が強まる。現在もそうだろう。誰かの作ったリハビリメニューに従って仕事を進めていく。こうなると目の前の患者さんを流れ作業的にこなしていくことになる。もちろんマニュアルとメニューの内容がある程度しっかりしていれば、そこそこのリハビリ成果を均一に生み出すことになる。
従ってセラピストがファーストフードの店員化していくのは避けられないだろう。つまりファーストフード店の店員は優れた接客の技術とそつのない振る舞いを発達させるが、使っているマニュアルやメニューの妥当性を判断し、よりすぐれた改善ができるようにするのは難しいだろう。セラピストもそのような現場での必要な技術のみを発達させるようになり、創造性は脇に置かれることになる。
人は様々な経験を積むことで生活や仕事、問題解決、状況判断のスキルが発達するのだと思う。マニュアル化やメニュー化された単調で均一な流れ作業的な仕事の経験を繰り返していては、セラピスト一人一人が問題解決のスキルや技術を発達させるのは難しい。
そうなるとスピード化と効率化を目指しつつも、患者一人一人の問題に耳を傾け、患者一人一人に適した解決方法を生み出すような仕組みを作って、その成果を広く現場にフィードバックしていくようなシステムも必要になってくるだろう。つまり企業の商品開発部のようなシステムである。企業の命運はその部署の成果にかかっている。リハビリもそんな時代になるのではないか。リハビリの場合は大学などの研究機関がそんな役割を果たすのだろうか?(僕は臨床に関わる人間がやった方が良いとは思う・・・)
というのも現在セラピストは大量に生まれるようになった。個人個人が総合的なリハビリ能力を備える時代は終わったのではないか。現場では接客と適切な治療技術、臨機応変の能力が求められる。一方、開発部ではより創造力を求められるようなメニュー開発が行われ、現場にフィードバックされる。そんな社会全体のシステムとしてリハビリを考える時代になったのだと思う。
それでもまあ、CAMRは未だに個人の問題解決能力の改善に焦点を当てているし、これからもそのつもり(^^;だって現場で個別のメニューを考える人間は絶対に必要だもの。いつだって想定されていない問題、未知の問題は起きてくるものだから(終わり)