「独りで考え、行動する訓練」
昔、実習にきていた作業療法科の学生さんが新しい訓練のアイデアを相談してくれたことがある。
彼のアイデアを簡単にまとめると、「トイレ付きでベッドと食卓、流し、食器棚、冷蔵庫、本棚、ゲームなどのアクティビティ類などの揃った部屋を用意して、その中で独り、数時間から一日過ごしてもらう。冷蔵庫の中にはお弁当やサンドイッチ、色々な飲み物を置いておく。お腹が空いたら冷蔵庫のなかのものを食べてね」と指示するのだそうだ。患者さんはもちろん室内自立している患者さん。そうすると「独りで時間を過ごすことから患者さんはいろいろ経験し、学ぶのではないか?」というのだ。
これは「独りで考え、行動する訓練」と名付けるという。
「どうしてそんなことを考えたのか?」と聞くと「僕のおじいちゃんは病院のリハビリで歩けるようになった。病院ではとても一生懸命歩いていたし、リハビリの先生も『意欲的な患者さんです。家でも歩けます』と説明していた。それなのに、家に帰ると歩かなくなってしまった。意欲がなくて、なにもかも家族任せである。結局病院では何をするにも指示に従って動くだけである。だからダメなのだ。アクティビティだって先生から与えられるだけだ。なにができるか、なにができないか、そして何をしたいのか、独りで考え、探し、試し、実行する経験が必要ではないか!」ということだ。
なかなかの熱弁だったので印象に残った。普段は礼儀正しく、もの静かで冷静な学生さんだった。
僕は「面白いね」と表面的には答えたが、あまり実現できそうにないし、第一あまりやる意味が感じられなかった。そこで主にはどうして実現が難しいかという理由を説明したと思う。
一方で、学生さんなのにすでに新しい訓練が必要であると考えているところがすごく頼もしく、感動した。人からいわゆる「正しい答え」を教えてもらうことが当たり前で、いつまで経っても自分で判断しようとしないセラピストが多い中で、少なくとも自分の頭で考えようとしているその姿勢に感動した。そこをもっと褒めるべきだったか・・・
まあ、その話はそれっきりになってしまったが、久しぶりに何かのきっかけで思い出した。なんとはなしに面白そうではあるが、色々考えてみたがやはりあの訓練はなにが期待できるのか、今ひとつピンとこない。僕の頭は硬いのだろうか?と思ったりする。それともなにか画期的な可能性を秘めているのだろうか? 皆さんはどう思います?(終わり)
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