人の運動の特徴を問われたら・・・(その3)

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人の運動の特徴を問われたら・・・(その3)


 前回は人の運動の特徴として「状況性」を説明した。


 CAMRの2つ目の重要な人の運動の特徴は、「課題特定的」ということだ。


 この性質は機械の運動と比べるとよくわかる。


 機械というのは、ある目的を達成するために必要で最小限の機能を組み合わせて作られる。従ってこの機械から生まれる運動は、この機械に備えられた機能だけに制限される。たとえばロボット掃除機は、床を掃いたり、拭いたりしながら動き回り、障害物を避けて最終的にドックに帰還して、ゴミを排出する。


 仮に「ゴキブリを見つけたら捕まえてね」とか「猫が寂しがらないように遊んであげて」と命令しても、そのような機能は備えていないので、できないのである。


 もちろんゴキブリを見つけるセンサーを加え、それに向かって殺虫剤を噴射する機能を後からつけることはできるが、増えた機能はそれだけである。ハエ退治はしない。まあ、もっとも猫じゃらしの機能を加えなくても、猫は自分から遊び相手に選ぶようだが^^;


 つまり機械の運動の特徴は「機能特定的」ということだ。機械は目的とする機能を達成するのに必要な最低限の機能で組み立てられている。できる運動は予め備えている機能によって特定されるということだ。


 一方人は、様々な課題を達成することができる。たとえ生まれて初めて見る運動でも、練習によってできるようになる。僕の息子は小学生5年の夏休みの時に三つ玉のジャグリングに挑戦した。始めは全くどうして良いかわからずに泣いていたが、10日後には連続20回程度できるようになったものだ。


 全く未知の運動課題でも、その課題達成のための練習と工夫で、新しい運動スキルを創造することができる。人の運動システムでは、無限の運動を生み出す可能性を元々持っていて、その時必要な課題達成のための必要な機能が生まれてくるわけだ。


 そして「その必要な機能は、人にとって必要で適切な課題によって特定される」ということだ。つまり、人の運動は課題を通して生み出され、修正される。 これが「課題特定的」という特徴である。


 前回の「状況性」という性質は、運動システムが豊富な運動リソースと多彩な運動スキルを持っているから可能になる述べた。そして今回の課題特定的という能力も、この豊富な運動リソースと運動スキルを多彩に生み出す能力によって支えられている。そうなるとやはり訓練の主な内容は、「運動リソースを豊富にし、運動スキルを多彩にすること」だとわかる。


 更に今回の「課題特定的」という特徴によって、「運動リソースを豊富にし、運動スキルを多彩に生み出す過程」が明らかになった。つまり運動リソースの豊富化も運動スキルの創造的な多彩化も「適切な運動課題を通して可能になる」のである。


 そうするとセラピストの仕事とは、「この患者さんにはどのような運動課題が適切で、どのような条件下で、提案し、修正するべきか」を考えることである。つまり「課題の設定と提案であり、課題達成に向けて実施条件や課題そのものを修正する」ことである。


 世間では、セラピストの仕事は、「患者さんに運動のやり方を教えること」といった勘違いが存在する。「私が正しいやり方を教えてあげます」みたいな感じで振る舞うセラピストを見ることも多い。


 しかし運動課題の達成方法を探索して、試行錯誤し、適切な方法を見つけるのは患者さんにしかできない。


 だからセラピストは「患者さんにとって適切な課題を考え、患者さんの状態を評価して必要な環境リソースなどを提案して運動リソースを増やし、その課題の実施条件などを変化・修正して、患者さんがより具体的な、効率的な運動スキルを生み出せるよう計画し、評価すること」である。


 患者さんとセラピスト、それぞれの役割を認識してお互いに協力しながら患者さんの生活課題達成力の改善を目指して協働するということが重要である。(その4に続く)



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