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毎回5分で理解する「要素還元論」と「システム論」(その8)
CAMRでは「自律的問題解決」は6種類に分類していますが、今回はその2番目の「外骨格系問題解決」です。(6分類はこのシリーズの「その6」に挙げてありますので参照してください)
「外骨格系問題解決」は「筋群を硬くして、支持性や固定性を得る」という問題解決スキル全般を指します。
たとえば腰椎ヘルニアで疼痛が起こると、圧迫部分と反対に脊柱を反らせて逃避性に側彎を起こします。またその側彎状態を維持するため体幹全体を硬くして、動きが出ないようにします。
また脳卒中後には、麻痺の領域は弛緩状態になります。弛緩状態というのは、筋肉が緩んで可動性のある骨格が水の袋に入ったようになります。水の入った袋を机の上に置くと重力に押されて安定するまで広がってペタッと机に貼り付いたようになります。体もちょうどそんなイメージです。
これでは動けなくなりますが、やはり動物なので動くための問題解決を図ります。つまり身体の内外に利用可能なリソースを探ります。そして筋を収縮して硬くする伸張反射やいわゆる錘体外路系の筋収縮のメカニズムを過剰に働かせたり、筋肉内にあるキャッチ収縮のようなメカニズムを優位に働かせたりするのです。
大きく見れば、「探索利用スキル」のうち「筋群を硬くするメカニズムという身体リソースを利用」して体を硬くしている訳で、探索利用スキルの一種とも言えますが、ここではこれを独立して分類しています。それだけこれは重要で頻繁に利用されますし、大きな誤解も生みやすい問題解決だからです。
そして甲殻類の昆虫やカニのような外骨格系動物のように体を硬くして、支持性や固定性を得るので「外骨格系問題解決」と名付けられました。そしてこの外骨格系問題解決は、脳性運動障害では一番多く見られる問題解決です。
ジャクソンは脳性運動障害の症状を「陰性徴候」と「陽性徴候」に分類しましたが、このアイデアでは、脳性運動障害の元の症状は弛緩麻痺、つまり「陰性徴候」だけだと考えられます。陽性徴候とした原始反射の亢進や過緊張は、運動システムが弛緩状態から動き出すために筋肉を硬くするための試み、つまり問題解決の現象だと考えられます。
実際上田法などの徒手的療法やボトックスなどによって、過緊張状態が低下すると露わになるのは弛緩状態です。症状のうち硬さなどの陽性徴候だけが消えてしまうのは妙な話です。これも陽性徴候は、弛緩状態から抜け出すために運動システムが障害後に選んだ問題解決の作動と考えると、陽性徴候だけが改善するのも納得できます。
また過去にはこの外骨格系問題解決は大きな誤解を生んできました。いわゆる「過緊張が正常な運動の出現を邪魔している」というアイデアが広まっていました。日本脳性麻痺学会などでも常識のように発表されたりしていました。(もちろんその頃から反対意見もありました)
確かに過緊張状態のある軽度~中等度の脳性運動障害のある方の過緊張状態が低下すると、運動範囲が広がり、動きがスムースになることはよく経験されます。やはり「過緊張がよりスムースな運動の出現を邪魔しているではないか!」と言われそうですが、これはCAMRでは問題解決に伴う「偽解決状態」として説明ができます。
つまり弛緩状態から動き出すために筋肉を硬くするわけですが、これらのメカニズムは健常の神経-筋システムのようにうまく調整されている訳ではなく、障害後に動員され、繰り返し使われている訳です。調整がうまく行かず、繰り返され次第に硬くなりすぎてしまいます。
そうすると元々弛緩状態を改善するために硬くなったのに働き過ぎて硬くなりすぎ、運動範囲を狭め、運動速度を低下させます。更に硬くなると動くために大きな力が必要になってかなりの努力が必要で発汗や発熱を伴うこともあります。更に更に硬くなりすぎると動けなくなり、不快や痛みなどの感覚が常に伴ったりもします。
このように元々解決策だったものが、新たな問題を生み出すことを「偽解決状態」と呼びます。
弛緩状態の体にとって硬くなることは、支持性を生み出し、必要なことではあるのですが、強くなりすぎると逆に本来持っている運動の出現を妨げる原因にもなります。
こうして「過緊張が正常運動を妨げる原因であり、脳性運動障害では過緊張を改善することが主なアプローチである」などという誤解を生んでしまうのです。 この辺り詳しく説明すると長くなるので次回に述べます。(その9に続く)
毎回5分で理解する「要素還元論」と「システム論」(その7)
CAMRでは「自律的問題解決」は6種類に分類していますが、今回からそれらの一つ一つについての説明をします。(6分類は前回の投稿を参照してください)
まず「自律的問題解決」の6分類の最初は「探索利用スキル」です。
探索利用スキルというのは、人の運動システムのもっとも基本的な課題達成方法であり、同時に問題解決方法です。これは以下のようにシンブルに表現できます。
「人の運動システムは必要な課題を達成しようとするとき、身体の内外に利用可能な運動リソースを探索し、その運動リソースの利用方法である運動スキルを生み出し、修正しながら課題を達成する」
このような基本的な方法を「探索利用スキル」と呼びます。
つまり人の運動システムの作動の主な目的は人にとって必要な課題を達成することであり、その目的を達成するためのもっとも基本的な作動で、常に繰り返されている作動です。
従ってなにか問題が起きたときも、この作動が行われることになります。問題解決をして必要な課題を達成するために、身体の内外に利用可能な運動リソースを探索し、その利用方法である運動スキルを生み出して課題達成しようとします。
たとえば片麻痺後に患側下肢が振り出せなくなると、利用可能な健側下肢や体幹を使って色々と試行錯誤します。すると健側へ重心移動して体幹の伸展によって患側下肢を振り出すという「分回し歩行」という運動スキルが生まれます。
セラピストがT-caneという環境リソースを提供すると、それを健側上肢で利用して基底面を広げ、更に健側への重心移動が安定して大きく、素早く行われるようになるので、分回し歩行の運動スキルは更に効率的になります。
同じく片麻痺後に半身に麻痺が起きると麻痺のある手でものを操作できなくなります。菓子パンの入った袋を両手で開けようとすると麻痺の手は動きません。そこで利用可能な健側の手で袋を持ち、袋の反対を歯で噛んで袋を開けるという運動スキルを生み出すわけです。
私たちも踏み固められた雪面では重心移動を小さくするために歩幅を小さく小刻みに運びます。また靴底の滑りやすさを感じて、靴底を雪面に対して垂直に下ろすという運動スキルを生み出して安全に歩くという問題解決を図ります。
水溜まりを渡るときは、靴が水浸しにならないように浅いところを見つけてはつま先立ちになって着地し、蹴り出して大きく跨ぐような運動スキルが生まれて問題解決を図ります。
片側の上肢麻痺のある方が、健側の手でコップを持ち閉まったドアの前に立ちます。このままコップを持っていたのではドアノブが開けられません。ドアの反対に窓の桟があって何とかおけそうなので置いてみます。安定して置けるのを確かめて、空いた健側の手でドアノブを開けてその後再びカップを持って部屋に入るという課題を達成できます。
背中が痒いのですが、その部分に手が届きません。周りを見ると新聞広告があるのでそれを硬く丸めて棒を作り背中を掻いて課題達成します。
うちの親父は片麻痺になりました。退院後うちに帰ったときに古い農家の造りで廊下の両側は障子戸です。親父は軽い基礎定位障害があったので「手すりをつけようか」と聞いたところ、親父はしばらく考えて「いや、いい」と言い、やおら障子戸の格子の太い部分の上の紙をバリッと破って手を突っ込んだのです。そして障子戸の桟を握って押して移動する手すりとして歩き始めました。
僕は親父と相談して、不要の戸を外し、滑りが良くなるようにロウソクを塗ったりカンナで戸の上部を削ったりして使い易くしました。
今思うと、親父は軽い基礎定位障害でバランスが少し悪いだけで、支持性が悪いわけではないのです。だから体重をかけれるようなしっかりした手すりが必要なのではなく、体のバランスを安定させる程度の軽い支持があれば良かったわけです。
親父はそんなことを知ってか知らずか、いや、理由さえ知る必要もないのでしょう、その後もその「移動手すり」を使ってよくトイレに行っていました。 こんなふうに人は日常に現れる達成するべき課題、解決するべき問題に対して常に身体の内外に利用可能な運動リソース(身体リソースや環境リソース、情報リソース)を探索し、その利用方法である運動スキルを生み出しては問題解決して、課題達成をしているのです。
そのやり方全般をCAMRでは「探索利用スキル」と呼んでいるわけです。(その8に続く)
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毎回5分で理解する「要素還元論」と「システム論」(その6)
システム論を基にしたCAMRは、人の運動システムの作動の特徴を基に運動システムと障害の理解とそのアプローチを導きます。
ここまでで「状況性」という作動上の特徴を基に「リハビリの内容」が決まり、と「同一課題での運動リソース交換可能性」という特徴を基に留意するべき点が分かりました。また「課題特定性」という特徴で、「リハビリの手段」が明確になりました。
今回テーマにする人の運動システムの作動上の特徴は、「自律的問題解決」です。
人の運動システムの基本的な作動の目的は、人にとって必要な課題を達成することです。つまり安全を確保したり、食事をしたりの必要なものを手に入れたりすることです。そのために人は探し、移動し、ものを操作します。
このやり方は、身体の内外に利用可能な運動リソースを探し、課題達成のためのそれらの運動リソースの利用方法である運動スキルをその場で生み出しては、何とか課題を達成していくわけです。
しかし課題達成になにか問題が起こると、その問題を解決して必要な課題を達成しようとします。
たとえば腰椎ヘルニアで疼痛が生じて動けなくなると、圧迫部分を逃すように逃避的な側彎が生じ体幹部を硬くして動きによる痛みを減らそうとする問題解決が行われます。
「おーい」と呼ばれると、人形のように体幹はそのままの姿勢で脚で踏み換えてふり向いたりしますよね。
また腓骨神経麻痺になると下垂足が起こります。このままでは歩行時につま先が床に引っかかって転倒の危険という問題があるので、膝を高く挙げる鶏歩という問題解決が行われます。片麻痺になると患側下肢の振り出しが困難という問題が生じます。そうすると体幹部の伸展や健側下肢への重心移動による「分回し歩行」という運動スキルによって問題解決を図って歩けるようになります。
これらの問題解決は、特に人が意識していなくても運動システムによって自動的・自律的に行われて、人はそのことを意識することはありません。問題が起こると本人が知らない間に運動システムが自律的に問題解決を図るわけです。
すると私たちは、元々の運動障害の現象に加えて、運動システムの自律的問題解決によって引き起こされる現象の混合状態を目にすることになります。
もし運動システムが自律的問題解決を図っていることを知らなければ、目にする現象は全て障害による現象、つまり全部を症状として見てしまうことになります。
特に脳性運動障害のように麻痺が広範囲・長期に渡って存在することになると、元の症状に加えてたくさんの問題解決による現象が同時に起きているわけで、これがしばしば脳性運動障害を誤解する原因になっているのです。次回からこの点を詳しく説明します。
また自律的問題解決のやり方はCAMRでは6種類に分類されます。以下の通り。
①探索利用スキル
②外骨格系問題解決
③不使用の問題解決
④骨靱帯性問題解決
⑤健康時の問題解決
⑥安心確保の問題解決
これらも次回から詳しく説明して行きます(その7に続く)
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毎回5分で理解する「要素還元論」と「システム論」(その5)
今回検討するのは「課題特定性」という人の運動システムの作動の特徴です。
これを知ると、リハビリをどのように進めたら良いのかがわかるようになります。
課題特定性というのは、課題達成のための運動スキルは課題そのものの遂行によって生まれ、修正される」という特徴です。わかりやすく言えば、「歩くための運動スキルは歩くという課題を遂行することによって生まれ、修正される」ということです。なんだか文章にすると「当たり前じゃん!」と行った感じですね。
でも臨床では、歩く練習をするために「椅子に座って四頭筋訓練をする」といったことはよく見られます。
これはやはり人の運動システムを機械のように見ているからでしょう。座位での四頭筋強化がそのまま歩行で活かされると考えてしまうのです。確かにロボットでは、膝を伸ばすモーターが壊れたら、それを交換するだけで元々設定された歩行が行えるようになります。つまり壊れたリソースを交換するだけで良いのです。
つまりロボットには運動スキルが無いのです。ロボットの「やり方」は予め決められていて、人の運動スキルのように状況によって自律的に新たに創造されたり、変化に対応して自然に発達したりするものではないのです。ロボットで考慮するべきはリソースだけで良いのです。
しかし人の運動システムでは、課題達成は運動リソースと運動スキルの二本立てです。座位で四頭筋の筋トレをすると筋繊維は太りますが、そのままでは歩行に役立ちません。増えた筋力という運動リソースをどのように歩行に使うかという運動スキルも筋力変化に応じて対応させ、発達させるための運動スキル学習が必要なのです。
少し前の話ですが、高校野球で「長打力をつけよう」と新たに筋トレを加えることがブームになりました。しかし実際に筋力だけ改善しても長打力が伸びるどころか、バッティングそのものが下手になるということが見られました。
筋力という身体リソースだけが変化すると、それまで使われていた運動スキルでは適切に対応できなくなるのです。だから変化した運動リソースに対応してうまく課題達成できるような新たな運動スキル学習が必要な訳です。
この場合も「打撃という運動スキルを進歩させるためには、変化した筋力を上手く使うための打撃という課題そのものをやっていく必要がある」のです。
というのも、ある課題を達成するための運動スキルを生み出すための情報リソースは、その課題の中にしかないからです。だから歩行をより安定させたいなら、歩行練習の中でより安定することを目標に運動スキル学習をしなくてはいけないのです。
実際に運動スキル学習を効果的に行うための課題の条件もわかっています。以下の3つです。
① 行為者本人が、必要な課題(行為者自身にやる意味や価値が感じられる課題)
② 行為者に取って達成可能な課題(少なくとも介助や環境リソースの工夫で達成できる課題)
③ 行為者自身がアクティブに実践・経験できる課題となります。 そうなると、セラピストにとって一番重要な仕事の1つは「課題設定」ということになります。
セラピストは患者さんにとって意味や価値の感じられる課題を提案する必要があります。それにその課題が修正や介助や環境リソースなどによって何とか達成できるように工夫する必要があります。また課題の実践や経験を通して、患者さんが意味や価値が感じられ、取り組む姿勢がより良くなるように援助する工夫も大事になります。
CAMRでは、セラピストが課題設定するための工夫や技術がいくつか用意されていますので、機会があれば講習会などを受けられると良いと思います。
さて、「状況性」と「同一課題のリソース交換性」という作動の性質で、医療的リハビリでやるべき内容が示されました。そして今回の「課題特定性」という作動の性質で、リハビリの手段が示されました。
そしてもう一つ考慮するべき「自律的問題解決」という作動の性質があります。これこそが脳性運動障害のリハビリでは一つのキモになります。次回からこれを少し詳しく説明したいと思います。(その6に続く)
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毎回5分で理解する「要素還元論」と「システム論」(その4)
CAMRでの障害の理解は非常にシンプルです。
障害を持つとは、まず筋力や柔軟性、体力などや身体の一部を失うなどの身体リソースが低下・消失することです。また痛みは運動パフォーマンスを低下させますのでこれが強まることも筋力などの身体リソースを低下させます。
すると身体リソースの低下に伴い、利用可能な環境リソースが減少します。また身体と環境の関係性を示す情報リソースも減少あるいは不適切なものになってきます。結果として多様で柔軟、創造的な運動スキルを生み出せなくなり、様々な生活課題の達成力が低下することになります。これがCAMRで考えられる障害の状態です。
そうするとアプローチは、まず増やせる身体リソースをできるだけ増やすことになります。もし痛みがあれば、痛みはできるだけ改善することです。
また利用可能な環境リソースをできるだけ工夫して増やすことです。たとえば手動の車椅子は無理でも操作装置を工夫した電動車椅子なら利用可能かも知れません。
さらに増えた身体リソースや環境リソースを使うことによって、情報リソースをアップデートしたり、適応的な運動スキルを生み出したりする練習をすることになります。
このように「状況性」という作動の特徴からは、障害をどう理解するかとリハビリで何をするか、何を目標にするかがわかってくるのです。
また上に「増やせる身体リソースはできるだけ増やすことです」と述べています。要素還元論のアプローチでは、「悪くなったところを改善する」というアプローチをとるのが普通です。それが効率的であると考えられるからです。
でもCAMRでは、「悪いところを改善するのではなく、改善できる身体リソースはできるだけたくさん改善する」という方針を持ちます。どうしてでしょうか?
理由はやはり人の運動システムの作動の特徴にあります。人の運動システムには、「同一課題での運動リソース交換可能性」とCAMRで呼ぶ特徴があるからです。
これでよく挙げる例は、「立って靴下を履く」という課題です。通常健常者に「立って靴下を履いてください」というと、片脚立ちになりもう片脚を屈曲して両手で靴下を履くことが多いと思います。講習会でセラピストにこの課題を出すとほとんどの方がこうします。
そこで「もしその履き方ができないときはどうしますか?」と聞くと、多くの方が「片脚立ちができるように下肢と体幹の筋力強化とバランス練習が必要」などと答えられます。
おそらく多くのセラピストの頭の中には、「立って靴下を履くための標準的な(正しい)やり方」としてこの方法があるのでしょう。ちょうどロボットでは、設計者が考える正解の動きがあって、それができるように修理をします。要素還元論では自然にロボットを見るような目で人を見るようになるので、これもその傾向なのかも知れません。目標とするべき正しい運動があると無意識に思ってしまうのでしょう。
でもセラピストの中には、「壁にすがって靴下を履きます」と答える人もいます。つまり筋力やバランス能力といった身体リソースの代わりに壁という環境リソースを利用しても同じ「立って靴下を履く」という同じ課題を達成できるわけです。
僕の知っている95歳のおじいちゃんは、両脚で立ったまま、両手で靴下を広げて片脚の前に持っていきます。そしてまずつま先を挙げて靴下をかぶせると、次に踵を挙げて履いて見せます。筋力やバランス能力の代わりに体幹の柔軟性を交換しても課題達成できるわけです。
このように「立って靴下を履く」という同一課題を様々の異なった運動リソースに置き換えても達成できるのが人の運動システムの特徴の1つです。つまり人では、異なったやり方で同一課題を達成することは普通のことです。そのためにその時その場で多彩で柔軟、創造的な運動スキルを創出する能力を持っているのです。これがロボットと違う人の独自の作動なのです。
どのような運動スキルを生み出すかは、その人の運動システムがその時その場で出会う状況の中で創造的に生み出します。そして運動システムがどの運動リソースをどのように利用するかはセラピストにはすぐにはわからないことも多いのです。だって95歳のおじいちゃんが立ったまま靴下を履くなんて、なかなか想像できないでしょう? だから「改善できる可能性のある身体リソースはできるだけ改善しておく」ことです。運動システムの可能性を広げるためには改善できる身体リソースはできるだけ改善しておけば運動システムが思いもよらない利用方法を思いつくこともあるわけです。
もちろんセラピストも経験を積むうちに、たとえば「寝返りを筋力ではなく体幹の柔軟性と下肢の重さや重力を利用して寝返る」などを知ることになります。そのような理解が進むと、より効率的な身体リソースの改善を援助できるようになりますが、ともかくそれでも「できるだけ改善できる身体リソースは改善しよう」というのが基本方針であることに間違いはありません。人の運動システムは時に驚くほど創造的な方法を生み出すからです。(その5に続く)
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