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今回は「CAMRの基礎知識 Part1「探索」その3」です。
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CAMRの基礎知識 Part1「探索」その3 2014/4/4
「探索に始まり、探索に終わる!」
実習生のレポートを見ると、「股関節外転・外旋・屈曲」とか「足関節内反・尖足」とかよく書かれています。運動の評価に各部位や姿勢全体の形の記述が多いのです。
確かに従来的アプローチは運動の形に焦点を当てています。佐々木正人さんがどこかに書いておられましたが、運動科学は映画の技術とともに発展したとのこと。運動はフィルムに記録され、一コマ一コマの姿勢の変化として捉えられたのです。運動科学は運動の形に焦点を当てて発達したのですね。
また姿勢全体や各部位の形とかに焦点を当てると、自然に「健常者の運動の形」との比較になります。そうすると問題は「健常者の運動の形とのズレ」として捉えられ、また「健常者の運動の形に近づくことが良くなっていること」という流れを生み出しているように思います。
時には麻痺があるのに健常者と同じ運動の形を目標にされたりします。でもそれは無理でしょう。健常者と同じ形を要求するなら「その前に麻痺を治して!」と患者さんが言いたくなるのも無理がないです。
さらに姿勢や運動というのは、元々揺らぎを持っています。ある瞬間の場面の股関節の形を取りだしてどうこう言うのもどうなのでしょう?学生のレポートなどを見ると、その患者様はいつもその格好で歩いているかのような印象を受けます。たくさん見られる運動の形の中で、健常者の運動から一番かけ離れているものに注目して書いてあるような気がします。
もちろん形に焦点を当てることは有効な場面も多々あります。形を見ることが悪いと言っているわけではありません。ただ一瞬の形だけを取りだして、それだけを基に色々言うのもどうかと思うわけです。(まあ、学生は形から入っていくことの方が簡単で取っつきやすい、というのはあるのでしょう)
CAMRでは、基本的に形ではなく機能に焦点を当てます。たとえば「支持」し、「重心移動」し、「振り出す」機能があります。歩行は片脚で支持しながらその脚に重心を移動し、反対の脚を「振り出す」運動の繰り返しです。
片脚支持という機能を実現するために身体だけで可能、あるいは杖や片手すりや平行棒が必要かどうかという状況を見ることによって、使われる運動リソースを理解できます。またその形を見ることで、どの運動リソースを利用したどのような運動スキルを生み出しているかがわかります。使われている運動リソースや運動スキルと機能の関係を見いだしていくわけです。
(文にするとややこしく感じられますが、実例で見ていくと簡単で、すぐにコツが掴めます)
CAMRではセラピストが「機能と運動リソース・運動スキルの関係を探る」ことが探索の一部になります。その「探索」の過程を通して、「どの運動スキルを多彩にしていくか」と「どのような運動課題を選択するか」が見えてくるのです。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆
【CAMRの基本テキスト】
西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版
【あるある!シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 著「脳卒中あるある!: CAMRの流儀」
【運動システムにダイブ!シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①
【CAMR入門シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 著「システム論の話をしましょう!」CAMR入門シリーズ①
西尾 幸敏 著「治療方略について考える」CAMR入門シリーズ②
西尾 幸敏 著「正しさ幻想をぶっ飛ばせ!:運動と状況性」CAMR入門シリーズ③
西尾 幸敏 著「正しい歩き方?:俺のウォーキング」CAMR入門シリーズ④
西尾 幸敏 著「リハビリの限界?:セラピストは何をする人?」CAMR入門シリーズ⑤
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今回は「CAMRの基礎知識 Part1「探索」その2」です。
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CAMRの基礎知識 Part1「探索」その2 2014/3/30
「探索に始まり、探索に終わる!」
従来的アプローチでは、評価というのは人の運動を細かな部分に分けて見ていきます。たとえば歩行を見る時、座位での膝伸展筋や股関節屈筋の強さや臥位での股関節や膝関節可動域などを調べます。そして個々の評価を再び統合して全体像を理解しようというわけです。部分の振る舞いの総合として全体を理解しようします。これは要素還元主義と言って従来の主要な科学の基本的な枠組みでもあります。
だけどこれは難しいことです。たとえば自動車のタイヤを個別に評価することができるでしょうか?タイヤだけを取り出して調べたところで、実際に車につけたときの操作性や乗り心地を評価できるものでしょうか?
同様に座位で調べた四頭筋や腸腰筋の強さから歩行の様子を理解できますか?実習生や新人さんを見ていると、皆とても困惑しています。いったん目で見た姿勢や運動をバラバラの評価項目で部分部分に分解してみていきます。それで全体の動きが説明できるかというとどうも難しい。いやこれは正直僕にも難しい。
実際何よりも問題なのは、あれだけ学生時代にたくさんの時間とエネルギーを費やして身につけたはずの可動域検査や徒手筋力検査法を臨床では使わないセラピストももたくさんいます。僕自身は必要をあまり感じない。なくても効果的な訓練は可能だし、これらは本当に僕たちに必要な技術・知識なのだろうか?
CAMRの「探索」では、関節可動域検査や徒手筋力検査は使いません。人は全体として何ができるかできないか、と言うことを「探索」していきます。その人が望むこと、必要なことに沿って課題を設定し、それがどの程度できるか、どのように条件を変えるとできるかできないか、とかをクライエントとセラピストが協力して「探索」していくのです。(続く・・・)
★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆
【CAMRの基本テキスト】
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西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①
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CAMRの基礎知識 Part1「探索」その1 2014/2/2
「探索に始まり、探索に終わる!」
理学療法では「評価に始まり評価に終わる」と言われます。CAMRでは従来の「評価」も利用しますが、メインは「探索」になります。
「評価」と「探索」は何が違うのでしょうか?評価はセラピストが評価項目を決め、クライエントに指示し、実施し、記録し、分析します。つまりセラピスト主導で行われます。
この過程では、クライエントはしばしば自分自身の運動の情報から疎外されてしまいます。もちろん評価は基本的に専門知識を基に専門用語で表されるものですから、これをクライエントに分かりやすく伝えることは難しいのでしょう。
しかしもっと問題なのは評価によって「指示し」-「従う」関係が作られることです。おまけにその情報からも疎外されてしまうので、自然にセラピストとクライエントの間には、「指示し」-「従う」関係、時には「管理し」-「管理される」関係といった一方的な関係が作られるように思います。
CAMRでは、クライエントを「自律的な運動問題解決者」と捉えます。つまり運動状態を示す情報は、何よりもクライエント自身が知る必要があります。クライエント自身が主体で、セラピストはそのサポートに回るからです。
また情報はクライエントとセラピストで共有する必要があります。共有することによって初めてクライエントはクライエントの立場から、セラピストはセラピストの立場から「協力して」問題解決に取り組めるわけです。
このようにクライエントとセラピストが、クライエントの運動状態に関する情報を協力して探り、情報を共有する過程をCAMRでは「探索」と呼びます。
文責:西尾幸敏
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西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版
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システム論の話をしましょう(その7)
動的システム論も生態心理学も、非常にたくさんの面白いアイデアが詰まっています。そんな中から、臨床で使えそうなものとして僕が選んだのは「運動は課題を通して組織化される」と「運動をリソース(資源)とスキル(技能)の視点で見る」という二つのアイデアです。具体的に見てみましょう。
臨床である課題を提案すると、患者さんはその課題を達成しようとして試行錯誤を行います。
たとえばしばらく立っていない患者さんに「立って見ましょう」と言います。すると患者さんは両膝に手を置いたり、片手を前に出してさまよわせたりします。おそらく手すりのようなものを前方に探すのでしょう。あるいは座面に両手を置いて力を入れたりします。そして座面に体を持ち上げるための手応えを感じると両手に力を入れて立ち上がろうとします。お尻が浮き上がりますが、すぐに落ちてしまいます。そして試みを諦めてしまい、「できんよ」と言います。
両足に加え、両手と座面をリソース(資源)として利用すれば立ち上がれそうですが、立ち上がった後の立位保持に不安があるのかもしれません。人によってはこれらの試行錯誤は10秒位の間にすべて終わってしまいます。始まりから諦めまで割と短時間で、人によっては見逃してしまいそうなくらい短い試行錯誤です。
そこでセラビストがパイプ椅子をリソースとして、患者さんの前方に背もたれ側を向けて置いて「立ってみましょう!」と声をかけます。患者さんは再び両手を何通りかに置いてみます。左手をパイプ椅子の背もたれに、右手を座っている座面に置いたりして立ち上がろうとします。課題達成のためのリソースの使い方がスキルで、身体を含めたいくつかのリソースを様々なスキルでいろいろに試しているわけです。
最終的に両手で座面を押し、お尻が浮き上がったところで片手をパイプ椅子の背もたれに伸ばし、それを支えにしてもう片手を伸ばして両手で背もたれを持ち、体を起こしながらようやく立ち上がることができました・・・
「リソースとは課題達成に利用できそうな資源」であり「スキルとは課題達成のためのリソースの利用の仕方」です。このように課題達成の過程をリソースとスキルのアイデアで説明すると、患者さんが何をどうやって課題を達成しようとしているかが分かりますし、説明も比較的簡単で、患者さんの運動システムの作動がより身近に実感を持って観察できるようになります。
たとえば上記の立ち上がりですが、下肢や体幹の筋力あるいは柔軟性という身体のリソースが低下していて、健康なときのように体幹を前傾して両脚で体を持ち上げるというスキルでは課題を達成できなくなっています。そこで上肢などの身体リソースに加え、座面や椅子の背もたれといった環境内のリソースを、支持や重心のコントロールのために利用します。また片手を背もたれ、片手を座面に置いたりしてそれらのリソース利用のスキルを試行錯誤し、最終的に課題達成しますよね。
「患者さんは課題達成の過程を通して、利用可能なリソースを探し、スキルをいろいろに試行錯誤しながら課題達成の運動を生み出し、修正している」ことを実感することができます。まさしく「運動は課題を中心に組織化される」訳です。
ここからは余談です。
臨床で見ていると、試行錯誤があまりにシンプルで短い患者さんが多いですよね。「どうしてもっといろいろと試してみないのだろうか?」と思います。もっと探れば隠れた可能性に気がつくかもしれないのにと何度歯がゆく思ったことか。しかしそれこそが課題達成の調整を行うためのアフォーダンスという情報をリソースとして患者さんが利用しているのだろうと思い直したりもしました。
たとえばそのような例としてダーウィンの「土とミミズ」の話がリードの本に紹介されています。
ミミズは巣穴をいろいろな葉っぱで塞ぎます。巣穴の湿度と温度を保つためと考えられます。ミミズは穴に引き込みやすいように狭くなったところをくわえて引き込み、穴を塞ぎます。合理的ですよね。ダーウィンはいろいろな形の葉っぱやいろいろな形に切った紙を巣穴のそばに置き、どのように穴を塞ぐかを観察したのですが、やはり比較的簡単に細くなった引き込みやすいところをくわえて穴に引き込みます。最初に広いところをくわえた場合はくわえ直すのですが、それほど細かく何度も試行錯誤するわけではなく、すぐに引き込みやすいところを見つけてしまいます。実際試行錯誤はあるにしても非常にシンプルです。ミミズはどうやって引き込みやすい部分を知覚するのでしょうか?そこでミミズは課題達成のために利用可能なリソースの利用方法を特定する情報、すなわちアフォーダンスを利用しているのではないかといいます。
アフォーダンスはミミズの引き込みやすい部位を「くわえる」という運動を選択させるような情報で、ミミズはそれをくわえて動かすという探索を通して知覚しているのだという訳です。
そして人の運動システムでも同じことが行われているのだろうと思います。リソースにおける課題達成の可能性を少し試しただけで運動システムは結果が分かってしまうのだろう、と。試行錯誤をすぐにやめてしまう患者さんを見て、歯がゆく感じるセラピスト。そこにリソースを豊富に持っているセラピストとリソースの貧弱な患者さんの運動システムの違いがあるのだろうと感じたりしました。
つまりセラピストの運動システムはリソースが豊富なのでいくらでも探索の可能性を見つけ出してしまうのです。逆に重度麻痺の方ほど探索が短く素っ気なくなるのも、リソースが貧弱なためすぐに探索が終わってしまうからではないか。
患者さんが探索を続けるためには新しく達成可能性のあるリソースが加わるか、それを発見する必要があるのだ、と。時にセラピストの工夫したリソースやアドバイスが探索を再開させるのはこんな背景があるのだと思います。分かりにくい話だったらごめんなさい(^^;(その8に続く)
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