意欲のない人(その7)-リハビリ探偵 新畑委三郎の事件簿
俺は話を続けた。
「あと、今は週2回こちらに来られて、計4日間はおられるんですよね」
「ええ、月曜日に来て泊まって、木曜日に来て泊まってます」
「ではその時に娘さんに必ずやって欲しいことがあるんです」
「何ですか?」
「一つは体操です。大変かもしれませんが、娘さんが来られたときにおかあさんと一緒に体操をして欲しいんです」
「ええ、それは良いですよ。どんなものですか?」
「手で椅子の背を持って立ち、つま先立ちを20から30回、足踏みを20から50回、片脚を横に出して元に戻す体操を20から50回」
俺はやって見せながら説明した。
「最初は20回くらいから始めて、できそうなら少しずつ回数を増やします。そしてすこしでもやったら褒めてあげてくださいね。決して無理強いしないように。あ、そうそう、『おかあさん自身のためではなく、私のためにやって!』という感じでかまいません。
つまりこう考えてください。部屋替えもそうなのですが、これまでとは状況を変えること、これが大事です。これまでは『自分のために頑張って』と言ってきたわけでしょう。だからこれからは『私のために頑張って』とこれまでとは違ったことをたくさん積み重ねていきます」
「ああ、これまでと違うことをやって試して様子をみると言うことですか?」「ええ、そうです。それで上手く行きそうだったらそれを繰り返し、上手く行かなかったら別の言い方ややり方を試します。そんな風に考えてみてください」
更に娘さんがおかあさんにしてあげられる簡単な体幹のストレッチといわゆる「失禁体操」を指導する。失禁体操は娘さんも非常に興味を持って色々聞いてこられる。
「まあ簡単そうな体操だし、一緒にやってみます」
「あと、もう一つ!」
「えっ、まだあるんですか?」やや、不服そうな表情をされる。
「ええ、申し訳ないのですが、実はいくつかのことを同時にやってみることで状況変化がより大きくなるんですよ。それでですね、おかあさんは話すのが不自由そうですね。普段あまりしゃべらないので口の動きが悪くなっているようです。それで口回りの体操もいくつか一緒にやって欲しいんです。他の全身の運動と一緒にやるとより効果が出やすいのです。そして一度にいろいろ、短期に集中してやると効果も大きくなります。もちろん無理のない範囲で始めて、無理のない範囲で続ければ良いです。それにこの体操をやるとほうれい線が浅くなって、頬も上がって若く見えると言われてるんですよ!」
娘さんは思わず吹き出した。
「あら、じゃあ私もぜひやらなくちゃ!ええ、ええ、わかりました」
どうやら覚悟を決められたらしい。
「無理なくできそうなことはできるだけ続けてやってみます。一度に、同時に、いろいろやってみるんですね」
表情が更に明るくなった。
「そうです。そして申し訳ないですが、もう一つ。今は病院には通っておられますよね?失禁のことを相談したことはありますか?」
「ええ、今は近所の内科、整形外科に通っています。内科は糖尿とか脳卒中があるので。でも失禁については相談したことがありません・・・・整形は右股関節の頸部骨折があって、手術をした関係で3ヶ月に一度様子をみて貰ってます」「なるほど。内科ではたくさんお薬を貰ってますか?」
「ええ、とってもたくさん」
「ここしばらくで新しいお薬を貰ってますか?たとえば半年前くらいから・・・」
「半年前よりもっと前からのお薬で、あまり変わったものはありません。いや、確か・・・血圧を下げる薬を新しくして、脚が腫れたりとかしていくつか増えました・・・ともかく薬の数が多くて大変だと思ってたんです」
「今度内科に行かれるときに、先生に相談してみてください。ここしばらくいつも失禁するようになってしまったこと。もしかして薬の副作用が関係していないか、ということです」
ここでも娘さんの顔が輝いた。失禁体操と同じく納得できる解決策と思われたようだ。
「ああ、もしかしたら薬のせいだったかもしれないんですね。是非、相談してみます」
「それと・・・ケアマネさんから話を聞きました?」
「ええ、デイ・サービスを変わるっていう話ですよね。ケアマネさんといろいろ相談して、是非にとお願いしました」
実はデイサービスの変更をケアマネの裕美さんと計画したのだ。今は午前中に数時間のデイサービス利用で、リハビリをするだけである。ほとんど他の利用者さんと話をすることもないそうだ。おかあさんが人付き合いを億劫がるのでそうしたのだが、週2回の数時間のお出かけ以外はこの部屋で過ごしているため、この部屋との結びつきが強すぎるのだと思ったからである。娘さんの希望で入浴サービスがあって9時から4時までのデイサービスを今週中に母と娘で見学することになっている。デイサービスを変えればまた状況は大きく変化するだろう。
さて、サイは投げられた!後は結果を見ていくだけだ。
「しばらくは大変だと思います。何か気になることがあったらいつでもケアマネさんか僕に電話してください。また一週間後に連絡をします」と言ってその場を辞した。(その8に続く)
【CAMRの基本テキスト】
西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版
【運動システムにダイブ!シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①
【CAMR入門シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 著「システム論の話をしましょう!」CAMR入門シリーズ①
西尾 幸敏 著「治療方略について考える」CAMR入門シリーズ②
西尾 幸敏 著「正しさ幻想をぶっ飛ばせ!:運動と状況性」CAMR入門シリーズ③
西尾 幸敏 著「正しい歩き方?:俺のウォーキング」CAMR入門シリーズ④
西尾 幸敏 著「リハビリの限界?:セラピストは何をする人?」CAMR入門シリーズ⑤
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「CAMR Facebookページ回顧録」のコーナーです。
今回は「CAMR超入門 よく目にする光景(番外編)」です。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆
CAMR超入門 よく目にする光景(番外編)2014/1/12
シリーズの途中ではありますが、早くも番外編(^^ゞ
これからシステム論の説明などに入のですが、その前に少し言っておきたいことがあります。
以前の投稿で「CAMRは第3の選択肢」と述べています。この意味は、CAMRが「対症療法的アプローチや根本的アプローチに取って代わる唯一のもの」という意味ではありません。あくまでも3つのうちの一つの選択肢であるということです。
対症療法的アプローチや根本的アプローチにたとえ問題があったとしても、それでダメだなどと言う気はありません。そんなのはむしろ当たり前なのです。どんな理論、アプローチ、考え方、技術にもそれぞれ良いところと悪いところがあります。限界があるのが当然です。もちろんCAMRもそうです。
僕は臨床家だから、臨床家の目で理論や技術の良いところを見ています。理論や技術が問題解決のための道具と考えれば、道具の使い方を考えていくわけです。たとえば穴を掘るために、柔らかい地面ならスコップ、固い地面ならまずツルハシを選択します。固い地面が掘れないからスコップはダメだ、などという気はありません。それぞれ使いどころが違っているだけです。
ただ自分がいつも臨床で選ぶ枠組みや技術が一つであれば、良いも悪いもないでしょう。一つしか知らなければ比較の対象がないからです。良いも悪いも、限界もできることも気づかないで仕事をしてしまうかもしれません。ひたすらどんな地面でもスコップを使うように・・・だから選択肢を持つことは重要なのです。(まあそれはそれでスコップ一つでいろいろな地面を掘ってしまう「スコップの達人」になるのかもしれませんが・・・(^^ゞ)
ただしシステム論を読み進めるうちに不快を感じる方がいるかもしれません。それは無理のないことなのです。子ども時代からずっと「正しい世界の見方、考え方」と学び、同僚や後輩、子どもたちにもそう言い、説得してきた自分の考えや立場、生き方を非難されているように感じるからです。
僕自身もそうでした。でもこれまでとは大きく異なる枠組みであるからこそ知る意味も大きい。
ここから先へ進むには好奇心と同時に少しばかりの勇気が必要です。それは自分の知っている世界の外側に未知の世界があることを知る勇気であり、その世界へ踏み出すための勇気です。(その3へ続く) 文責:西尾
★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆
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意欲のない人(その6)-リハビリ探偵 新畑委三郎の事件簿
約束の日が来た。俺は挨拶をして娘さんと向かい合った。おかあさんはデイサービスに出かけている。
「まずおかあさんの失禁の回数を減らそうと思います」
娘さんはややびっくりして聞き返してくる。
「えっ、いきなりそんなことができるんですか?母は動く意欲をなくして、半分自暴自棄みたいな感じなんですよ。おしっこを漏らすのも平気になったみたいで・・・だからまず意欲が出ることが大事だと思ったんです。もともとおしっこ漏らして平気な人ではなかったんです。プライドも高くて・・・でも今は人生を捨ててるような感じで・・なんとか自分のために頑張って欲しいと思ってるんです」
「ええ、そうですね。人前で失禁してよしとするような方ではなかったんですよね?」
「ええ、それはもう几帳面で私たち子供にもとても厳しくてうるさかったんです」
「現在失敗したとき、おかあさんはどんな風に言われますか?」
「私が『しっかりしてよ、自分でできることはやらないとダメよ』と言うと『ダメなの、できないの、私は頑張ろうと思っても頑張れないのよ、しんどいの、辛いの、できないの』なんて言うんです」
「それで?」
「だから『自分のためにも頑張ってちょうだい』と言うと『もう私のことはどうでも良いの。頑張れないし頑張りたくない。もう死んだ方が良いの』なんて言うんです。『そんなことない、この間、一度頑張って公園に花見に行ったじゃない。頑張れるのよ』と言ったら『あれはあんたのために頑張ったのよ』なんて言うから『ダメよ、自分のために頑張らなきゃ』って言ったんですよ・・」
「なるほど、自ら生きる意欲がないということですね・・・まあ、それが一番大きいかもしれませんね。ただその意欲を回復してもらうためにも、身の回りのことで上手く行くことが沢山あれば良いと思います。身の回りの色々なことが上手く行き出すと、自信も出てくるし、結果的により良く生きようという意欲も高まってくると思うんです。その一つとしてまずは失禁の回数を減らそうと思うんです。
どうやってやるかというと、まず、おかあさんの失禁は、今、この部屋で娘さんも含めての状況の中で起きているんですね。だからこの状況を変えてみようと思うんです」
娘さんはあっけにとられた顔になった。「そりゃ、失禁が治ったり回数が減れば嬉しいんですけど、そんなことできるんですか?」
意欲は高められると信じているのに、失禁は意欲を高めないと難しいと思っておられるようだと感じた。やはり、人間は面白い。「まあ、一度だまされたと思ってやってみませんか?まずやることは部屋の模様替えです。それからおかあさんに対する態度も変えてみましょう。娘さんが来ているときだけで良いので日課も加えます。環境と生活を少し変えてしまうんですね」
「そんなことで上手くいくんですか?だって今回のこととはまるっきり関係ないことじゃないですか?」かなりご不満の様子だ。仕方ない。
「一見そう見えても、これで上手くいくことが多いのです。もし、これで変化がなかったら相談料はいりません!だから試してみませんか?」
しばらくあっけにとられていたが・・・「えっ・・・ホントにそれで上手く行くと思ってるんですね・・・・そこまで言われるんなら試すだけ試してみましょうか」少しその気になってくれた。相談料はいりませんというのは、こういった場合によく使う手だ。俺の言うことはあまり信用されないらしく、いつもこうでも言わないと受け入れてもらえない。
娘さんが言う。「何をどうしたら良いんですか?部屋の模様替えと言っても・・・・実はテーブルの回りが汚いので私もきれいにしようと思ったら母が怒るんです。動かすと困るって・・・だからできないんです」
「そうですか、ではできるところから始めましょう!まず最初は、おかあさんは食べることもお茶も神様の本を読むのもテレビも、そしておしっこもおむつ換えも全部この椅子で行われていますね?」
「ええ、そうです!」
「では清潔な活動とそうではない活動、たとえば尿パッド換えなどは場所を分けるようにします。それとおかあさんは神様などに関わる神聖な活動にご熱心ですよね。これを合わせて三つの活動の場所をはっきり分けてしまいます。神様の本は神聖なものだから、あの神棚の下の飾り棚の空いた部分に置き、あの辺りを神聖な場所とします。そして蓋付きバケツと尿取りパッドや紙パンツ類はあそこへ」と指さす。そこは台所のカウンターのこちら側にある段ボールが積んである場所だ。
「あそこへ使われていない椅子とその尿取りパッドが入っているそのテーブル脇のユニット棚を持って行っておむつ換えの場所にしましょう」
「でも母が承知するかどうか・・・」
「そうですね・・・神様関係は神聖なものだから、今のようにごちゃごちゃとお下のものなんかも一緒にしていると不敬に当たる、なんて言ったらどうでしょう。あるいはこの席で神様の本を読むんだったら、この場所を清潔な状態にして神様に接しましょう、というのはどうでしょう?あるいは神様の本を読む時には身の回りを清潔にし不浄のものを回りに置かないで読んだ方が良い・・・と説得してみたらどうでしょう?」
「ああ、なるほど!ええ、それなら言ってみる価値はあると思います」
そんなこんなで、大雑把に部屋内を三つの区画に分ける計画と説得するための言い訳を二人で話し合い、また部屋の模様替えの計画を二人で考えた。娘さんは熱心にメモをとっている。
「これで間違いなく、おかあさんの振るまいが変化すると思います!」
少しだけ娘さんの態度が生気を帯びてくる。何でもないようだが、やることとその意味を明確にし、ご本人ができると確信できてくると、集中力もやる気も高まってくるものだ。 だが、実際にはまだやることは山積みである・・・(その7に続く)
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今回は「CAMR超入門 よく目にする光景(その2)」です。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆
CAMR超入門 よく目にする光景(その2)2014/1/4
「その1」では、対症療法的アプローチが以下のような思考の流れから生まれてくることを説明しました。
①人はしばしば間違った姿勢や運動をするものである。
②そして間違った姿勢や運動は痛みや危険性、効率の悪さにつながる原因となる。
③だから専門家が、正しい姿勢や運動を指導・矯正しないといけない。
対症療法的アプローチの特徴は、「どうして間違った姿勢になってしまうのか?」という原因追及のプロセスが抜けてしまっていることです。そこで以下のように流れを変えてみます。
①人はしばしば間違った姿勢や運動をするものである。
②間違った姿勢を取る原因を考えてみよう。たとえば背景には運動をしない生活習慣がある。結果体が硬くなり、特に下肢筋や腹筋が低下して悪い姿勢になってしまった。
③そして間違った姿勢や運動は痛みや危険性、効率の悪さにつながる原因となる。
④だから専門家が、根本原因にアプローチし、また正しい姿勢や運動を指導・矯正しないといけない。
この流れの中では、ただ姿勢を直すように口頭指示してもダメだということが分かります。根本原因に筋力低下などが挙げられていますので、歩きながら指示するだけでなく、弱ったと思われる筋力や低下した柔軟性を改善する訓練が必要です。
結果柔軟性が改善し、筋力もアップしてきて、良い姿勢の保持ができるようになります。
さて、というわけで、若き日の僕もすぐに根本的アプローチの信奉者になりました。日々出会う多くのケースでは根本的アプローチは有効と感じられました。根本的アプローチ、万歳!めでたし、めでたし・・・
しかしそのうち、幾つかの疑問、あるいは懸念を持つようになりました。(その3に続く)文責:西尾
★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆
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意欲のない人(その5)-リハビリ探偵 新畑委三郎の事件簿
状況変化型アプローチを進める場合のもう一つの重要なコツは、主たる問題解決者である娘さんは何を問題にしているのか?ということだ。彼女の依頼は「意欲がないから高めてくれ」だ。確かにおかあさんにより良く生きようとする意欲が高まると、万事上手くいくと考えるのだろうが、そんなに都合の良い問題解決はない。そんな目標が達成可能なら、世の中は誰も苦労しないのである。これは「理想家の目標」である。つまり実現不可能な目標だ。
実際には娘さんの言葉の端々には、「おしっこを漏らしていてそれが苦労の種」というニュアンスがつきまとう。説明にはあまり触れられないが、来る度に溜まった洗濯物や尿臭のある掛け布団やクッションの処理に疲れるだろう。だから解決するべき問題は、「尿漏れ」であり、「尿漏れが減り洗濯物が減る」が目指すべき解決の1つの状態だろう。これは「意欲を高める」に比べて実現可能な目標である。
俺のように問題解決をして相談料を頂く仕事では、大事なのは依頼人の満足である。だからどうなると満足されるかを考えるのは一番大事なことだ。娘さんは「おかあさんの意欲を高めたい」と依頼されたが、これを言葉通りにとって、仮に俺がおかあさんを上手く操って「明日から私、頑張るわよ!」と娘さんの前で言って運動をしてもらうとしよう。娘さんは一瞬喜ばれるかもしれないが、失禁が変化しなければいつまでも満足はされないはずである。
これは普通のリハビリでも同じだ。患者や家族は言葉にならない具体的な願いを持っていることは珍しくない。また「こうなったら良いのに」という理想の目標を口にされることも少なくない。結果的には実現できない目標よりは、少しでも実現できる目標こそが大きな満足を生むものである。
さて、この二つが決まると具体的に状況変化アプローチの具体的なロードマップを作成する必要がある。これには時間がかかるので家に帰ってゆっくりと考えよう。
また「失禁とそれに伴う介護量の負担」が問題、「失禁の回数減」が目標として決まったので、こちらに対する原因追及型のアプローチのロードマップを考えてみる。
本人に認知症はないようだが、これはもう少し慎重に構えていたほうがよい。もう少し様子をみよう。
デイサービスの報告書では「娘さんへの依存性が高まって意欲がなくなったから」なんて言ってたが、それはどうも薄い。認知症もなく、単に依存性が高まって、動く意欲が低下して失禁が出るようになったとは考えにくい。むしろ逆だろう。失禁が始まって、それを自分でコントロールできず、無力感と自信のなさから意欲が低くなって、依存性が高まる・・・というのはこれまでもよく目にしてきた。
実際のところ、話を聞きながら俺には心当たりがあった。半年くらい前から失禁が始まったことを考えると、何かその頃に始まった状況変化が影響したかもしれない。すぐに思いつくのは薬の副作用である。もしその頃に新しい薬が始まっていればそれが怪しい。
もう一つはあの表情のなさが気になる。うつ病などでも失禁はみられるらしいので、精神科を受診して貰ったらどうだろう。
これで原因追及型のアプローチのロードマップはできあがった。一番の原因候補は薬の副作用であり、二番目の候補は精神疾患である。一つ目は主治医に相談してもらって、怪しい薬をやめてもらう。これで上手く行かないときは、精神科を受診してもらう。実にシンプルである。原因追及型は問題解決の道筋が単純だ。 このように因果関係の考え方、つまり原因を探してその原因を解決する考え方は、複雑な出来事をシンプルに理解して、問題解決を簡単にすると考えられている。これが利点である、と。だが物事はそんな簡単にはいかない。
たとえば脳卒中では体が不自由になるが、その原因はマヒであり、そのマヒの原因は脳の細胞が壊れたからである。これも実にシンプルな構造だ。原因は明確である。しかし原因が明確だからと言ってリハビリで壊れた脳細胞を再生、あるいは機能的に再生する手段はない。つまり原因がわかっても原因をなんとかする手がないのだ。どうしようもないのだ。人の体や振る舞いではこのようなことが多い。 医療的リハビリテーションでは障がいを問題にするが、根本原因である障がいは本来治らないものである。だからリハビリテーションの基本的な考え方は、現状をより良い状態にすることだと思う。
学校で習う原因追及型の問題解決は、一般の医療の第一の目標となる「病気の原因を治す」という方向性を持つが、リハビリでは「状況をより良く変化させる」という方向性を持つ状況変化型の問題解決が相応しい場合も多い。だから俺は常に二通りの問題解決を進めるわけだ。
しかし何はともあれ、今回ばかりは「原因追及型の問題解決」には俺も自信がある。「きっと薬の副作用かうつ病傾向かのどちらかだろう」と思っている。それで解決しそうな予感がする。だからいっそのこと、面倒な状況変化型のアプローチはしないで「原因追及型の問題解決」だけを進めてみようかと思ったりもする。その方が娘さんにも苦労をかけないし、俺も面倒な計画を立てなくて済む、と思う。
でも一方では「俺にできるだけのことはやってみる」という俺なりの方針みたいなものをいつの頃からか漠然と抱いている。今回の件では裕美さんも関係している、そうだ、できるだけ良いところを見せないといけないのだ!「そうだ!やっぱりできるだけのことはしてみよう!」そう結論づけたところで家に着いた。(その6に続く)
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CAMR超入門 よく目にする光景(その1) 2013/12/28
最近見たテレビ番組にこんなのがありました。「肩凝りや頸部の痛み、手の痺れは、実は首を含めた全身の姿勢に問題があることが分かってきました。専門家の先生に良い姿勢を教えてもらいましょう・・・さあ、これが良い姿勢です!そしてこれが良い姿勢をとるコツです。こうすると良い姿勢になります!」
他にもこんな光景があります。訓練室で歩行練習する患者さんとセラピスト。患者さんがずっと足下を見ながら歩いています。そうするとセラピストが「○○さん、また足下ばかり見てますよ。前も見ないと危ないですよ。顔を挙げて」と優しく注意します。○○さんは「はい」と顔を挙げて胸を張りますが、またしばらくすると顔を下げ、背が丸まってきます。するとセラピストがまた「顔を挙げて!胸張って!」と注意します・・・
これらの光景は以下のような思考の背景を持っていると思います。
①人はしばしば間違った姿勢や運動をするものである。
②そして間違った姿勢や運動は痛みや危険性、効率の悪さにつながる原因となる。
③だから専門家が、正しい姿勢や運動を指導・矯正しないといけない。
もうお気づきでしょうが、これが対症療法的なアプローチの流れです。目に見えた問題をそのまま口に出して、矯正しようとしたりします。「もっと足を高く上げて!」などと、継続的な口頭指示を続けるセラピストがいますが、その場その時に出ている症状に焦点を当てています。でも指導しながら心の中で呟くのです。「何度言ってもすぐ忘れるんだから・・」
実は僕自身、若い頃はこんな訓練をしていました。ただ見守って歩いていても仕事してないみたいだし(^^ゞ、何かもっともらしい指示出した方が専門家っぽいし・・・(^^ゞみたいなところもありました。でも言っても言っても一時的な変化しか生まない、ということに気がついて「俺何やってんだろう・・」などと思いました。「問題を指摘することは無駄なのではないか・・・」という思いがある日、胸に兆したのです。(その2に続く) 西尾←これまで名前書いてなかったので(^^ゞ
★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆
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意欲のない人(その4)-リハビリ探偵 新畑委三郎の事件簿
ケアマネの裕美さんは「ごめんね、『意欲を高めてくれ』なんて依頼で・・・・失禁とかもあって専門じゃないでしょう?でもこれまでもいつもなんとかしてくれたから、今回も期待してるわ!」と俺の肩をポンと叩いてくる。 「じゃあ、次の約束があるから、私行くわね。委三郎さんも忙しいんでしょう?また連絡するね」とくるりと背を向けて駐車場に向かう。弾むように歩いて行く後ろ姿を、俺はしばらく見送った。
確かに「意欲を高めて欲しい」という依頼には参る。俺はまずこれを目指すことはしない。基本、他人の意欲を意図的に高めるなんてできないからだ。自分の意欲をコントロールするのだって難しい。まあ状況変化が起きて、結果的に「意欲が高まる」ことはよくあるが、まあ、まずい依頼を受けてしまったかな・・・・しかし、率直に言って裕美さんから頼られるのは悪い気分ではない。俺にとってはまあまあ良い感じの人だ。一緒に仕事をするのはむしろ楽しみでもある。裕美さんだって俺と仕事をするのは楽しいと言ってくれる、ふふふっ・・・
でもお互いに結婚しているので、仕事以上に付き合おうとは思っていない・・・・が、もちろん裕美さんからどうしてもって言われるんなら付き合わなくもないというところだ、フフン・・・まあ、残念ながら今のところ裕美さんの方にはそういう雰囲気はない・・・おっと、妄想に走ってしまった・・・
俺は次の仕事があると言ったが、実は今日は急ぎの仕事はない。先ほどの家を辞するための言い訳だ。ゆっくりと考えをまとめるつもりだ。なにかひらめきそうなのだ。
俺は問題解決に当たってはできれば二通りの方法を用意する。一つはそれらしい原因を推測して、因果の関係を想定し、その原因にアプローチする。これは原因追及型の問題解決で学校でも習うものだ。だが現実には、有力な原因が見つからないことは多いし、逆に沢山ありすぎることもある。また見つかってもどうしようもできない原因も多い。
たとえば脳卒中後に歩行不安定になる。その原因はマヒであり、マヒの原因は脳の細胞が壊れたことだ。でもリハビリでは脳の細胞を再生させたり、あるいは機能的に再生することは今のところできていない。つまり原因がわかってもどうしようもないわけだ。
だから俺はいつももう一つの状況変化型の問題解決を主に進めることにしている。
たとえば「現在の問題は現在の状況から生まれている」というふうに考えていく。つまり失禁の問題は、あの家のあの環境とおかあさんとで作られるシステムの中で生まれているのである。あの部屋とおかあさんが出会えば、いろいろな状況が生まれうるだろう。しかし水が低い方へ流れて一番低いところで溜まって落ち着くように、その状況の中で自然に「動かないで失禁」という状況に安定しているのである。やるべきことは、状況を変化させて落ち着く状態を変えることである。
こうして原因追及と状況変化の二刀流で問題解決を図るのだ。
そう言うわけで、まずは状況変化型のアプローチを考えてみる。
状況変化型のアプローチを組み立てるにはいくつかのコツがある。
まず・・・最初のコツは誰が一番問題解決に熱心かと言うことだ。この場合もちろん娘さんだ。今回の依頼人だ。この人が主たる問題解決者になる。
よく若い人から、「なぜセラピストが主たる問題解決者ではいけないのか?」と聞かれる。これに簡単に答えると、「セラピストが主たる問題解決者として振る舞うと、セラピストがいるときにしか状況変化が起きない」からである。だから主たる問題解決者は患者本人か、その家族が好ましい。
そうすると「患者や家族は消極的で何もしようとしない」と反論されるが、患者や家族は問題解決のための具体的な選択肢を持っていない場合が多いのだ。普通の患者や家族が持つ選択肢は、「病院に行って、専門家に任せる」である。自分が何か問題解決に役立つとは思いもよらないし、具体的に実生活で自分ができる有効な手段があるとは考えていないことが多い。
よく病院でセラピストが「家ではこのような運動をしてください」と言うが、これも「専門家の判断に従う」という文脈の中で動いているだけのことが多い。自分から「問題解決しよう」という積極的な態度ではないので、長続きがしないことも多い。
また専門家の意見に従った結果、「何がどうなるのか?」という具体的な目標があやふやだとやはりあまり熱心に取り組まれないことが多い。「こう頑張ったら、こうなった」という結果が見えないので、続けようという意欲が長続きしないのだ。
だから状況変化アプローチを進めるときは、主たる問題解決者を決めてその人に何を目的に、具体的に何をして、その結果どうなるのかを良く知っていただく必要がある。
さて、あともう一つ大事なことを考えなくてはならない。それは・・・(その5に続く)
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意欲のない人(その3)-リハビリ探偵 新畑委三郎の事件簿
さて、ご本人に家の中を歩いていただく。椅子に座った状態から体を前方に傾け、両手をテーブルや椅子の肘掛け辺り、さらには片手を座面に置いたりするがどうもしっくりとこないようだ。最終的に両手で両方の肘掛けを持って体を持ち上げる様にして立ち上がる。動きは重い。尿臭が漂う。
「トイレまで行って座ってみましょう」と言う。すぐには歩き出さない。ほんの少しの間、起立状態で両脚の支持性を確かめているようだ。それから少しずつ動き始めるが、すぐに姿勢良く、すっと独歩でトイレに向かわれる。
「まあ、どうしたの?」と娘が大きな声を上げる。「いつもはこうやって」と両手の平を下にして小さくひろげ小刻みによちよちと歩いて見せながら「よろよろと歩いているのよ。もう人が見てると良いところを見せようと頑張るんだから!やっぱりやればできるのよね」と声を上げる。1メートルも歩くと歩行はますます安定してくる。室内で杖を使う必要はないようだ。部屋の壁に手すりがあるがそれも使われない。トイレまで4メートルあまり。頑張って最高のパフォーマンスを見せようとされているのだろう。まあ、正直のところ俺は内心がっかりした。起立や歩行の改善は俺の得意分野だし、もう少し悪ければ運動面だけでもより劇的な変化を見せられる可能性があった・・・まあ、多少は運動改善は可能だろう。まあ、劇的な変化はないだろう。
ドアを引いて開け、入ると左手にトイレの引き戸がある。そこは開けっぱなしでそこからトイレに入るが、トイレはかなり狭く、大きな体で動くのは難しそうだ。足下が狭いせいだろう。よちよちと方向転換する。手すりはないが、壁を持って便座に座られる。トイレが狭いので手すりをつけられないのだろう。
トイレ内での起立も壁を頼りに立たれる。そしてまた少しの間立った後精一杯すました感じで椅子に戻られる。「脚がしびれて重くて上手く歩けないし、しんどいんです。どうか治してください」と言われる。口がもごもごと動いてしゃべりにくく、聞き取りにくい。
娘さんが期待した顔を俺に向ける。「専門家としてどうなの?どう思ったの?解決案を言ってよ!」という感じである。弱った(^^; 俺は娘さんに微笑むと、おかあさんの方を向いた。「上手に歩かれますね」おかあさんの表情はあまり変化しない。「その棚にたくさんの本が入っていますね。それらの本は読んでおられるんですか?」彼女は無表情を俺に向けた。「読んだ本なのよ。私は毎日一つのお話を読むようにしてる・・・とても良いお話でね・・私たちがどのように生きたら幸せになるかを・・・・」俺が聞き取ったのはそんな内容だ。彼女はどうも思うように口が動かないらしく、苦労して話されるが突然会話が途切れる。話すのがしんどくなったらしい。
次に娘さんが口を挟んだ。「ええ、とてもわかりやすくて、良い教えで・・・・」どうも二人とも同じ宗教のようだ。俺は話を聞き流しながら、テーブルのそばの飾り棚の上の神棚を見た。
俺は娘さんの話の途切れた途端に口を挟んだ。「そうなんですね。毎日神様の教えを勉強しておられるのですね。だから神棚はとてもきれいです。素晴らしい!娘さんが?」と神棚を指さす。「いいえ、母が毎日きれいに掃除して、水を替えてるんですよ。これだけは今でもきちんとやってるんです」「なるほど、それは素晴らしい・・ところで今日はもう時間になりました。次の場所に行かなくてはなりません」娘さんは面食らったような顔をした。かまわず続ける「いろいろ教えていただきありがとうございました。私としては少し考える時間が欲しいんです。今日はたくさんの話を伺って、様子を見させていただきました。あまりにたくさんのことがあるので少し考える必要があります・・・娘さんはこんどは3日後の金曜日に来られるんでしたよね。私もその時間に合わせてここに来ますので、もし良かったらその時また話をさせていただけませんか?」
俺はケアマネの方を向いた。彼女が頷いた。「そうですよね。いくら新畑先生でも、この場で話を聞いただけでいきなり問題解決とはいきませんよね。金曜日は私は忙しくて来れませんけど、良いですかね?」と俺に尋ねる。「ええ、かまいませんよ」結局、娘さんも渋々承知する。
こうして俺とケアマネをその家を出た。
今回の話はそのケアマネさんから依頼された。「どうだった?なんとかなりそう?」急に砕けた口調になる。ケアマネの裕美さんは以前からの知り合いで、時々家族から受けた相談で困ると俺に解決を依頼するようになった。今回も相談料などの交渉はすべて彼女がしてくれた。
「いや、難しそう」とだけ答えた。(その4に続く)
【CAMRの基本テキスト】
西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版
【運動システムにダイブ!シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①
【CAMR入門シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 著「システム論の話をしましょう!」CAMR入門シリーズ①
西尾 幸敏 著「治療方略について考える」CAMR入門シリーズ②
西尾 幸敏 著「正しさ幻想をぶっ飛ばせ!:運動と状況性」CAMR入門シリーズ③
西尾 幸敏 著「正しい歩き方?:俺のウォーキング」CAMR入門シリーズ④
西尾 幸敏 著「リハビリの限界?:セラピストは何をする人?」CAMR入門シリーズ⑤
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みなさん、ハローです!
「CAMR Facebookページ回顧録」のコーナーです。
今回は「CAMRの実践紹介-症例を通して 解説編」です。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆
CAMRの実例紹介-症例を通して 解説編
CAMR研究会代表の西尾です。
ここでは秋山さんの症例紹介を基に簡単にCAMRの解説を行います。
一つ目はCAMRではセラピストが複数の視点を持ち、それを切り替えながら考えるということです。CAMRではセラピストの立場だけでなく、患者さんの立場、そして患者さんの運動システムの立場に立って考えることを勧めています。運動システム内部の視点に立つと,姿勢や運動の形は見えません。しかしシステム作動の目的や達成状況、作動の性質は良くわかってきます。たとえば運動システムは、常に人にとって必要な課題を達成しようとしますし、もし課題達成に問題が起きると必ず問題解決を図ります。
この方は麻痺肢を振り出すために使えるところを使う「分回し」という問題解決を図ります。また患側下肢の支持性に自信がないので、次第に患側下肢の使用を最小限に抑える「不使用」の問題解決を図ります。この状況を変化させるポイントはここにあります。
つまり基になっている麻痺は今のところセラピストにはどうしようもありませんが、問題解決は運動システムが麻痺後に選んだものですから、当然変化することが可能な場合が多いのです。
この方の場合、患側下肢の不使用のために健側下肢を十分に振り出すことができない状況が見えていて、これは患者さんにも不利となっています。一方セラピストの視点で見ると患側下肢の支持性は十分です。だから使わないのはもったいないとなるわけです。
このようにCAMRでは運動システムとセラピストの視点を行ったりきたりしながら評価を進めていきます。(CAMRには運動システムの視点から作動を理解するための6つの作動原理がまとめられています)
またもう一つ。運動システムは様々な要素の相互作用の結果、その作動は安定した状態になります。安定した作動とは自然に頑丈な状態へと変化するものです。だからこの頑丈さを崩して状況変化を起こすのはかなり難しくなります。
たとえば分回しのスキルは障害後最初に課題達成に成功したスキルなので、運動システムはそれを繰り返し続けます。不使用スキルにしても同じです。初期に患側下肢の使用を最小限にすることでうまく行くのでこれを繰り返します。そして頑丈な状態になっていきます。従って運動システムが「分回し」、「不使用」より安全面でもエネルギー効率からも優れているスキルが見つからない限り、「分回し」、「不使用」のスキルは繰り返し使われ続けてしまうのです。
そこで状況変化のための治療方略が必要になります。ここでは簡単に言うと「多要素・多部位同時アプローチ」という治療方略を用います。つまり私たちが起こせる状況変化を一つ一つ積み重ねていきます。たとえば柔軟性を広げることで運動範囲や重心移動範囲を大きくします。また患側下肢が「思っているより使えるよ」と経験を重ねていただきます。「実りある繰り返し課題」を継続して実施することで、運動の余力をできるだけ高めていきます。またここでは述べられていませんが、CAMRには「足場作り」という技術があり、それによって成功経験をより強めたり、患者さんの意欲を高めたりしていきます。結果、患者さんは成功体験に自信を持ち、更に作動を変化させていったわけです。(秋山さんにとって足場作りは当たり前に使っていることなので、今回は言及しなかったようです)
結果、患側下肢の支持時間が増え、健側下肢を大きく振り出して前方へのより大きな推進力を生み出しますので、その後に続く患側下肢の振出もより容易になってまっすぐに振り出せるようになったと考えられます。つまりより安全で効率的な身体の使い方、つまり新しいスキルを繰り返し、自然に新たな頑丈な状態へと変化したのです。
CAMRでは通常運動の形を変化させることは目標としませんが、支持、重心移動、振出などの働きを改善することを含めて様々な角度から作動を変化させ、ここでは結果的に運動の形も変化したわけです。
まずは患者さんの状況を理解するためには、患者さんの運動システムが障害に対してどのような問題解決を図っているかを知ることが重要です。それによって患者さんの運動システムが何を問題にしているかがよくわかるからです。たとえば分回しはこの状況では良い問題解決、しかし不使用は新たな問題を生み出していると考えることができます。そして問題を生み出す不使用の状況を変化させるように計画していきます。結果運動システムの分回しスキルへの依存は減少して、よりまっすぐに振り出せるようになったのです。
CAMRでは運動システムは通常6つ問題解決方略を使うと考えています。その問題解決毎に新たに起きる問題や状況変化の方法が少しずつ変わります。脳卒中では普通2-4種類の問題解決が同時に使われていることが多いのです。講習会では実際の患者さんのビデオを見ながらこれらを理解することができます。
講習会再開の時には是非ともご参加下さい。お待ちしております!(^^)
★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆
【CAMRの基本テキスト】
西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版
【運動システムにダイブ!シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①
【CAMR入門シリーズの電子書籍】
西尾 幸敏 著「システム論の話をしましょう!」CAMR入門シリーズ①
西尾 幸敏 著「治療方略について考える」CAMR入門シリーズ②
西尾 幸敏 著「正しさ幻想をぶっ飛ばせ!:運動と状況性」CAMR入門シリーズ③
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意欲のない人(その2)-リハビリ探偵 新畑委三郎の事件簿
俺の名前は新畑委三郎(しんはた いさぶろう)、理学療法士で、パートでいくつかの施設で働きながら、講師業や本を書いたりしている。また時にはリハビリの難件を依頼によって扱っている。世間ではリハビリ探偵などと呼ばれている。
さて、今回の依頼人の続きだ。ケアマネがデイサービスのスタッフと担当PTに簡単な報告のメモを頼んだところ、丁寧な報告書を書いてくれている。以下の様な内容だ。
デイサービスは週2日、午前中のみ利用。開始時歩行は室内は自立、屋外は杖で見守りで今も変わっていない。デイサービス利用当初は安定しているので「歩いて良いですよ」と勧めていたが、リハビリ以外はほとんど椅子に座ったまま。来てお茶を飲んで一息ついたところで運動に誘っている。運動は座ったまま行う下肢運動のマシントレーニング3種を行っている。指示には素直に従われる。
屋外歩行については、本人は連続50メートル程度は歩かれると言われるが、ここでは屋外歩行はしていないのでよくわからない。
ケアワーカーは、最近尿臭があること、洋服が汚れていても着替えていないなど、以前とは様子が違っていることに気がついていたが、短時間の利用でトイレにも行かれないのであまり介入する機会は無かったとのこと。話しかけるとよく話されることもあるが、あまり社交的ではないようだ。利用者さん同士で会話が弾むこともない。
スタッフの意見をまとめると、あまり動こうとされず、文句も言われないがなにかしようとする意欲が低いのではないかと言うこと。
理学療法学科の学生として実習に出た当時から思うのだが、1人の患者さんにはとてもたくさんの情報がまとわりついている。調べれば調べるほど、たくさんの問題とその原因が現れてくるものだ。昔ははやく原因を明らかにしようと躍起になって疲れたものだが、今はそんなことは考えない。粛々と調べを続ける。
家は十二畳ほどの長方形のリビングダイニングを中心に、部屋の長辺片側に六畳ほどの寝室と四畳半ほどの広さの風呂・トイレ・洗面がついている。リビングダイニングの入り口側の1/3に対面式のキッチンがあり、反対の壁際にテレビとその前に大きな六人掛けのテーブル、テーブルと揃いの椅子六脚などがある。その長いテーブルの短辺はテレビに接して、その対面にご本人の椅子が置いてある。テーブルと椅子の下には少し厚めのカーペットが敷いてある。椅子はやや低めの藤の回転式の椅子だ。肘掛けが両方についている。辺りには少し尿集が漂う。
日中1人でいるときにその回転椅子に座ったまま、テレビをみて動かないらしい。回転椅子のすぐそばにはユニット棚が二つ置いてあり、それらの中やテーブルの上には様々な身の回りのものが置いてある。また一つのユニット棚には宗教関係らしい本が入っている。ふと壁際の高さ120センチくらいの飾り棚の上に小さな神棚とお供えのお皿などが置いてあるのが目につく。他のところはややほこりっぽいが、そこだけはきれいにしてある。テーブルの下には蓋付きの青いバケツが二つ置いてある。
依頼人のおかあさんは回転椅子に座っている。やや肥満で顔は無表情。挨拶をするがやや口は不自由そうだ。足下のユニット棚のせいで、足下が狭くなっている。椅子は大きく、重いが、回転式で向きが変わるようだ。しかしそばに置いてあるユニット棚に肘掛けがこすって動きにくそうだ。
どうやら椅子に座ったまま身の回りの事が済む様になっている様だ。見た目にもいろいろなものが雑然と集められている。ひがな一日、テレビを見たり、本を読んだり、お茶を入れたりしながらその場所に座っているとのこと。汚れた尿取りパッドを入れる蓋付きのバケツまでテーブルの下に置かれている。
六畳の寝室はカーテンが引かれ、回りにはタンスが置かれていて暗い。中央にベッドが置かれている。部屋に入ると、やはり尿臭がする。
娘さんが説明する。「最近何度か泊まってわかったんですけど、夜寝る前に紙パンツの中に新しい尿パッドを自分で入れて寝るんで起きたときには敷き布団は濡れることは少ないです。それで朝6時に起きて神棚に参って、その後またベッドに座ってウトウトしてるんですよ。パッドも一杯でどうもその時に浸みだして濡れるみたいなんです。だからそんなとこに座らないで着替えてと言うと、このテーブルの椅子に戻って着替えるんです。でも太ってるから前にかがむのも難しいし、寝ぼけているから時間もかかって・・・しかももうパッドがパンパンで漏れるみたいで・・・だから敷き布団も掛け布団も濡れちゃうし、着替えで濡れたパッドなんかもこの椅子の回りに落として汚れちゃうんですよね。いったん起きてからも、パッドがパンパンになって漏れるくらいになってから、ようやくこの椅子で時間をかけて着替えるんですよ。その棚にパッドが山積みになってるでしょう?介護の方にそこに入れて貰って、着替えたらこの蓋付きバケツに汚れたパッドを入れるんです。トイレに行って着替えてって言うんですが、トイレは狭くて着替えるのが難しいって言うんです」
なるほど。さて粛々と調べを続けよう。次は実際にご本人の動きを見てみよう。(その3に続く)
【CAMRの基本テキスト】
西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版
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西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①
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