スポーツから学ぶ運動システム(その4)

目安時間:約 5分

スポーツから学ぶ運動システム(その4)


 従来、運動学習は人の運動システムを機械にたとえて説明されてきた。機械のように頭の中にプログラムがあり、同じ動きを繰り返し生み出していると考えられてきた。運動学習は、頭の中にプログラムを作るために同じ運動を繰り返すのである。その結果、一つのプログラムによって同じ運動が生まれ、同じ結果が生み出されると考えられた。


 しかしこれは間違っているのではないか。人の運動システムは機械とはまったく異なる作動原理で動いているのではないか。まあこれがベルンシュタインの出した結論である。人の運動システムは機械とは丸っきり異なった性質を持っているし、頭の中にあるプログラムで同じ運動を生み出しているわけでもないだろう。(実際スキーマ説のように修正されたプログラム説も後に出てきた。このスキーマ説に影響を与えたのもベルンシュタインと言われている)


 ではどのようにして人の運動システムは毎回異なった動きで同じ結果を生み出しているのだろうか?この説明のためにベルンシュタインは2つのアイデアを提案している。


 1つは協応構造だ。筋・骨格的なレベルあるいは神経的ないくつかのレベルで、動きを制限するような協応的な構造が作られるのだ。構造的に動きはグループとして限定されるので一つ一つの細かな筋をコントロールする必要がなくなる。


 たとえばスポーツでみると、初心者は体幹や四肢の動きがバラバラで協調性が見られないのに対して、上級者はその人らしい体の構え、フォームを持っている。プロ野球の打者やプロバスケットポールの選手は、自分らしく安定したフォームができるまで数え切れないほどの練習を繰り返す。


 ピッチャーの投げたボールは様々な速度、コース、球種で打席に届くが、そのボールがある範囲内におさまっていれば打者はその人らしいフォームでバットスィングをするものだ。それは繰り返しの結果のフィードバックによって課題を達成するために便利なベースとして作られた協応構造があるからだ。


 繰り返しの練習は、頭の中に固定的なプログラムを作るためではなく、より良い結果を生み出すための構え、ベースとしての協応構造を生み出すための過程である。職人やアスリートの一人一人はたくさんの試行錯誤の中から、自分に合った課題達成のための協応構造を発見し、作り上げるために繰り返し練習を必要とするのだ。


 そして一旦できてしまった協応構造も、しばらくその課題をしなかったり、身体的・状況的な変化(体型や筋力変化、環境変化など)が生まれると良い結果は生まれにくくなる。だからイチローのように一流選手になってからも、その時、その状況に相応しいように協応構造を修正するために基礎となる素振り練習をやめないのである。やめるとその協応構造を基にした課題達成方法と実際の状況変化の間にズレが生じて良い結果を生み出せなくなるからだ。


 そして実際の状況変化に応じるために必要なのが、ベルンシュタインが提案したもう一つのアイデア、「課題達成時の知覚情報の予期的利用」のスキルである。(その5に続く)


【CAMRの基本テキスト】

西尾 幸敏 著「PT・OTが現場ですぐに使える リハビリのコミュ力」金原出版


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西尾 幸敏 他著「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!: CAMR誕生の秘密」運動システムにダイブ!シリーズ①


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西尾 幸敏 著「正しさ幻想をぶっ飛ばせ!:運動と状況性」CAMR入門シリーズ③

西尾 幸敏 著「正しい歩き方?:俺のウォーキング」CAMR入門シリーズ④

西尾 幸敏 著「リハビリの限界?:セラピストは何をする人?」CAMR入門シリーズ⑤


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ADLは介護問題!その3

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今回は「ADLは介護問題!その3」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



ADLは介護問題!その3 2014/2/6
~悪循環・良循環~



秋山です。
 先日のベーシックコースで多くの示唆をいただきました。今回の投稿もその影響有り、です。始まり、始まり・・・



 AさんのADL(能力)は変化しませんでしたが、生活問題は解消しました。これは、「機能はプラトーだから用具を工夫」というリハビリでお馴染みの解決方法とは違います。Aさんの状況変化をもう少し見てみましょう。



 以前の問題はなんだったのか?



 尿失禁→介護量が増えて家族もイライラ→Aさん萎縮→尿失禁が続く・・・という悪循環にはまっていました。ご本人にとっては尿失禁がもちろん直接の原因ではありますが、それに続くこの悪循環(家族への申し訳なさなど)がこの問題を更に大きくしていました。



 尿失禁をなくそうとするアプローチやポータブルトイレを使う練習は効果がありませんでした。これらのアプローチは「頑張ってもうまくいかない」という結果に終わり、むしろ悪循環を強めてしまいます。自分ではコントロールできないことを「自分で解決しなさい」というアプローチはむしろ悪循環を強めてしまいます。(これらのアプローチが「偽解決」です。詳しくはHPなど)



   さて、ここでこの悪循環を断ち切る手段になったのは、視点の転換でした。目標は「尿失禁をなくす」ではなく「この悪循環を断ち切る」に変えたのです。介護職の努力により、「失禁しても衣服の汚染がない」という状況を作り出し、結果介護量が減りました。実はこれは「ブリーフセラピー(短期療法)」の応用です。HPを参照ください)



 このアプローチにより、実際に深夜の介助はなくなり、洗濯物も減少しました。この変化は家族のゆとりやご本人の自信につながり、日中排泄の失敗も減って、良循環に入ったのでした。めでたし、めでたし・・・



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆


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スポーツから学ぶ運動システム(その3)

目安時間:約 5分

スポーツから学ぶ運動システム(その3)


 前回は人の運動システムが同じ運動を繰り返せない理由の1つとして人の運動システムの粘弾性の性質を挙げた。


 ベルンシュタインは他に自由度と多義性の問題を挙げている。


 自由度はコントロールするべき対象の数と考えることができる。たとえば自由度1は線上を行ったり来たり、あるいは軸周りを回転する運動で、どの位置に止めるかは線上あるいは軸周りの一点を指定すれば良い。つまり一つの変数を決定すれば良い。人の関節でたとえるなら蝶番関節である。


 自由度2は平面上の一点の運動で、位置を決定するにはxとyの二つの変数を決定すれば良い。人の関節で言うなら平面関節。


 自由度3はそれに高さが加わり空間内の一点の運動となるので三つの変数を決定する。人の関節で言うなら球関節である。


 機械は基本どの可動部分も軸周りか線上を行ったり来たりする運動である。つまり自由度1の運動に制限されている。それらの組み合わせであるから、硬い基礎の上に設置された一つの可動部分が他の可動部分とお互いに動きを制限する。全体としてどんなに複雑そうな動きをする機械でも、どの部品もその組み合わせである一ユニットの動き方はいつも一つである。


 一方人では自由度2や3の関節の組み合わせである。右手人差し指で壁のスイッチを繰り返し押すとき、人差し指の位置は毎回決まっていても、肩の位置や肘、前腕の位置の組み合わせは無限に存在し、一つに決定されるわけではない。運動の軌跡や速度は無限に存在しうるし、結果はその時の状況による。つまり様々な運動方法で同じ結果を生み出しうる。


 多義性は、人の運動は状況によって、同じ筋収縮が別の運動を生みうるし、異なった筋収縮が同じ運動を生みうると言うことだ。たとえば上腕三頭筋が姿勢や状況によって異なった働きをすることを考えてみれば良い。


 またベルンシュタインは言っていないが、神経構造も1つの細胞がたくさんの細胞に繋がり、1つの細胞はたくさんの神経細胞を受けている。つまり1つの電気命令が多様な反応を生みうるし、たくさんの命令が1つの同じ運動を起こしうる構造なのだ。つまり神経構造で見ても1つの命令が1つの運動に対応していない。 これらをまとめると、状況によっても神経の構造によっても、1つの命令が異なった運動を生み出しうるし、一瞬一瞬に変化する状況の中では、1つの同じ命令が次から次へと異なった運動を生み出すということになる。


 まあ、回りくどくなってしまったが(^^;)、結論としては、人の運動システムは機械と違ったやり方で作動しているし、同じ運動を繰り返せないのだ。


 実際、職人のハンマーを打つ動作は、一回毎に肩や肘の動きや速度の関係が異なっているにも関わらず同じ結果を生み出しているのだが、これをどうやって実現しているのか?これが次回からの話なのだ!(その4に続く)

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ADLは介護問題! その2

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今回は「ADLは介護問題! その2」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



ADLは介護問題! その2 2014/1/27
~問題が問題でなくなる、変わらないけど変わる~



秋山です。反響があるととても嬉しいです(^_^) 



 さて、ご家族共に夜間の尿失禁"問題"に悩まされていたAさんが笑顔で在宅復帰された裏では何が起こったのか?



 リハスタッフが困っているその時、介護スタッフは運動機能とは別の視点で考えてみました。まず、Aさんの排泄パターンを詳しく調べてみました。そして「おしっこが出ても漏れないようにできるのではないか」と思い、工夫の結果、「夜間排尿はあるけれど、朝パットを取り換えればよい」という状況になりました。



 Aさんは、「失敗をして衣類や布団を汚し、介護者に迷惑をかける」という悩みから解放されました。ご家族は、大変だった介護(夜中起きる、たくさんの洗濯)が続けていけるもの(朝の着替えでパットを交換)に変わり、「これならやっていける」と安心しました。イライラも減り、Aさんもご家族もストレスが減りました。


 「えっ?期待させて、答えはそんなこと?」とがっかりされましたか?「そんなことは知ってるよ」という声も聞こえてきそう(^^;)



 今シリーズでCAMR研究会が伝えたいことは、「夜間の尿失禁に対する効果的な対策」というハウツーではありません。そういうのは私よりもっと詳しくて上手な方がたくさんいらっしゃいますので・・・。



 この事例から考えたいのは次のことです。在宅ではADLは家庭の問題であり、「介護問題」といえます。ご本人側だけではどうにもならないことにどうアプローチするのか。施設という場で、異なる状況の在宅での介護問題に対してどうアプローチするか。「在宅生活問題」への関わり方なのです。



*次回その3予告  悪循環を小さく切るには・・・ 



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



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スポーツから学ぶ運動システム(その2)

目安時間:約 4分

スポーツから学ぶ運動システム(その2)


 前回はゴルフとテニスなどを例に、人の運動システムは「同じ運動を正確に繰り返すことができない」という特徴があると説明した。今回はどうして同じ運動を繰り返せないのかを考えてみよう。


 ベルンシュタインはまずその理由の一つを、「人の体が粘性や弾性の性質を持っているからだ」としている。たとえるならゴムのような性質を持っているわけだ。僕なりにこれを機械と比較しながら説明してみよう。


 機械はがっしりと安定した金属などでできた躯体が基礎となる。自動車なら非常に頑丈なシャーシが土台となる。車のシャーシは通常走行なら、つまり事故でも起こさない限りほとんど歪んだりはしない。つまりこの頑丈な躯体を全体の基礎として可動部分だけが安定して正確に動くという構造である。


 一方人の体にはそのような頑丈で全体の安定的な構造を形作るような基礎は存在しない。まず人の体はたくさんの骨が柔軟性のない靱帯によって結びつけられた骨格がある。骨同士はある部分はタイトに、ある部分は大きな可動性を持って結びつけられている。 これを筋肉という柔軟性のある器官で包み込んでいくわけだ。筋肉は張力、つまり引く力しか生み出さないので、引く力だけで骨格の形を保ち、支持と安定性、そして運動を生み出す仕組みである。


 そして状況や運動課題によって、作動する筋群はどんどん変化し、支持する部分と可動する部位もまたどんどん役割を交代し、変化していく。同じ部位が状況によって支持したり、可動したりするわけだ。機械と違って作動ははるかに複雑なのだ。


 また柔軟な筋肉で形を成す構造であるから、力の発生によっても外力によっても、その形は全体に常に歪んでしまう。歪んでしまうと言うと聞こえが悪いが、しなやかに柔軟に形を変えながら動いているのである。機械では歪むのは可動部分だけで、基礎となる躯体はまったく変化しないわけだが、人では全身が常に柔軟に変形しているわけだ。


 まあ、人の運動システムは機械と違って柔軟であるというのがまず第1のポイントである。たとえば長さ1メートルの柔らかいゴムの棒で、壁の電灯のスイッチから離れてを押すところを想像してみると容易に理解できるだろう。ゴムの棒では持っているだけで先端が常にユラユラ揺れて押そうとしても毎回開始位置は違うし、異なった運動軌道を描いてしまう。


 実際には人の柔らかい体は呼吸などによって常に揺れて振動しており、その目に見えない小さな振動はゴムの棒に伝わると、1メートル先では大きな揺れになってしまうのである。


 まあ、柔らかい構造は同一の運動を正確に繰り返すことはできないのである。(その3に続く)

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ADLは「介護問題」! その1

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今回は「ADLは「介護問題」! その1」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



ADLは「介護問題」! その1 2014/1/26
~"ありがち"ではすまない切実な問題~



秋山です。新シリーズです。



 「母は夜いつもおしっこの失敗があるんです。その度に起こされて私まで寝不足だし、いつも洗濯物の山・・・」



 入所中のAさんのご家族の嘆きです。Aさんは軽い介助で移動ができ、在宅復帰を検討中です。Aさんも家に帰りたい、ご家族もできれば連れて帰ってやりたいと思っておられますが、夜間の排泄が大きな「問題」となっています。



 Aさん「自分では何ともできないの。家族に迷惑かけてしまって申し訳ない」でも自分ではコントロールできないことなので、失禁してしまいます。その後始末のため、家族も起きて寝不足、朝は洗濯物の山です。ご家族も頑張られますが、疲れてきてついイライラ。Aさんは小さくなってしまいます。



 またこうなってしまうの?家族の切実な心配事です。



 当施設に限らず、よくある場面ですね。さて、あなたならどうしますか?



 「機能的にはポータブルトイレ自立のはずです。Aさんが夜間にも使えるようにしっかりリハビリしましょう!」



 一見とてもいいアイデアです。実際にこの方法で解決することもあります。でも、そうならないからみなさん困ってるんですよね。
Aさんは立ち上がりなど上手くなってこられたのですが、移乗は見守りから変化なし・・・。



 運動機能は改善が見られました。でもADLには変化がなく生活問題は変わりません。



 当施設のリハビリスタッフ「ポータブルトイレを使う練習をこのまま続けても・・・。それに夜間一人では心配・・・」困った、困った。



 でも、何ということでしょう、Aさんは笑顔で、ご家族も喜んで家に帰られました。切実な問題はどうなったのでしょうか?



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



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スポーツから学ぶ運動システム(その1)

目安時間:約 5分

スポーツから学ぶ運動システム(その1)


 毎日オリンピック競技のテレビ放送を見ている。アスリート達はその時その場でできる最大限のパフォーマンスを生み出そうと必死だ。もちろん上手くいく場合もあるし、失敗する場合もある。上手く最高のプレーを生み出したときに、そして失敗したとしても必死に挑戦するその姿に感動するし、力をもらえるのだろう。


 さて、オリンピック競技を一度にいろいろと見ていると人の運動システムの特徴に気がついてくる。今回のシリーズでは、それを足がかりに人の運動システムの特徴について考え、私達リハビリの臨床に役立つように検討してみたいと思う。


1.人は同じ運動を繰り返せない


 以前から書いていることだが、不思議に思うのはゴルフとテニスである。自分の好きなところにボールを置いて、自分の好きなタイミングで慣れたクラブで打つゴルフが、一球一球速度もコースも高低も球種も異なる球を動きながら打つテニスと同様に難しいのはなぜか?


 あるいはバスケットボールで、全速力で走りながら敵の厳しいディフェンスをかわして打つシュートと自分の好きなタイミングで自由に打てるフリースローが同様に難しいのはなぜか?


 これは人の運動システムの基本的な特徴ゆえに起こる不思議である。


 その基本的特徴が何かというと「人の運動システムは同じ運動を正確に繰り返すことができない」ということだ。つまり人の運動システムはテニスのように変化する状況の中で適応的に身体を変化させ適切な課題を達成できるにもかかわらず、ゴルフのような単一の課題(置いたボールを叩く)のような同じ課題を正確に繰り返すことが難しいのである。思ったところに少しでも近づけるようにプロのゴルファーは気の遠くなるほどのたくさんの練習を、アメリカのNBAのプロバスケットボールの選手はコートに立つまでに通常100万回以上のフリースローの練習を繰り返しているのである。


 この特徴に一番最初に気づいたのはロシアの運動生理学者のベルンシュタインだろう。彼は労働者の技能について研究をしていた。職人さんがハンマーで釘の頭を正確に叩く様子を運動分析装置で見てみると、毎回異なった軌跡で開始位置や叩く速度も微妙に異なっていることに気がついたのである。この微妙な運動のズレはプロゴルファーのスイングやバスケットボール選手のフォームにも見られる。


 通常私達は職人さんの動きを見ると、「正確に同じ運動を繰り返している」と考えてしまう。「技を何度も繰り返すことによって、頭の中にプログラムができて、それによって正確に運動を繰り返して、同じ結果を出している」と考えるわけだ。


 しかしこれはロボットのように人の運動システムの作動を考えてしまう結果だ。機械は同じ運動を繰り返すことが得意である。機械では、硬い安定した躯体と可動部分を厳密に制限して必要以外の動き(ブレ)をなくすことで同じ運動を繰り返し、同じ結果を生み出している。


 だからもし人の腕を模した機械の腕で、中枢の関節の動きが1ミリ以下でもずれれば、先端の動きの誤差は遙かに大きくなってしまう。しかし職人さんの腕全体の動きは常に様々な要素でズレているのだから、釘の頭をハンマーで捉えることは常に失敗してしまうかというとそうでもない。


 つまり「人は同じ運動を繰り返すのができない」ので、職人さんやアスリートは「毎回異なった運動で正確に同じ結果を生み出している」ということになる。これは不思議なことである。これがどのように行われているかを知ることは私達にとっては非常に有益だろう。次回からこれを考えてみたい。(その2に続く)

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CAMR超入門 よく目にする光景(その6:最終回)

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今回は「CAMR超入門 よく目にする光景(その6:最終回)」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



CAMR超入門 よく目にする光景(その6:最終回)2014/2/7



 人の運動は状況に応じて変化します。たとえば家の中を歩くときあなたはリラックスして歩きます。しかし急に停電になって部屋が真っ暗になるとあなたは身体を硬くし、足や手で回りを探りながら歩きます。氷の上ではおそるおそる足を進め、向かい風に向かって身体を前のめりにして歩きます。狭い場所では横向きになって通り過ぎます・・・



 つまり人は状況が変わってもなんとか「歩行」という機能を維持しようとします。



 一方オモチャのロボットは平らなテーブルの上では歩いているように見えますが、ちょっとしたこと、たとえば十円玉を踏んで倒れたりします。そして先ほどまで歩いていたと思われる運動を正確に繰り返します。



 結局人の運動システムは、状況に応じて形を変えてでも、必要な機能を自律的に維持するという性質を持っています。逆にオモチャのロボットは、機能を維持するのではなく特定の運動の形を維持するシステムです。同じように「歩いている」といってもシステムはまったくの別物です。



 だから歩行訓練のために「形を憶えてその形を再現する」などという訓練目標はもともと人の運動システムには向いていないのです。歩行の特定の形の再現を求めることは、人の運動システムをオモチャのロボットのように考えているからです。



 「状況変化に応じて形を変えてでも機能を維持できる」ことを訓練の目標にしなくてはいけません。そのために何をするべきか、何ができるかを考える必要があるのです。そしてCAMRはこの文脈から生まれたアプローチです。



 システム論を知るということで世界観が変わりました。システムを形や構造ではなく機能で見ることでCAMRは生まれてきました。(これらのアイデアについては上田法ジャーナルに掲載したエッセイをHPに載せています)



 唐突ですが、CAMR超入門はこれで最後です。最初の方から何が「超」でなにが「入門」なのか良く考えずに書いていたので、最後まで「超」でも「入門」でもなかったですね。申し訳ない。ここまで付き合ってくださった皆様、ありがとうございました。
文責:西尾幸敏



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



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意欲のない人(その10 最終回)-リハビリ探偵 新畑委三郎の事件簿

目安時間:約 7分

意欲のない人(その10 最終回)-リハビリ探偵 新畑委三郎の事件簿


 携帯電話の向こうから裕美さんはいつもの勢いで話し始めた。


 「娘さんから話を聞いた?ごめんなさいね、うちの先生の勘違いでね・・・娘さんと別れた後ですぐに先生のところに行って話をしたのよ。どうも先生、おかあさんを認知症の方だって思い込んでたみたいで。娘さんから薬の副作用の話を聞く前に、失禁は認知症のせいだって言っちゃったんだって。私からおかあさんの説明をしたら納得して凄く反省していたわ。早速色々調べてたわ……


 でね、どうも直接失禁の原因と明確に言い切れる薬はないようよ。もちろんいろんな組み合わせもあるからなんとも言えないらしいけど。でも最近の状態を私が詳しく伝えて、不要と思える薬もあるし、少し検討して薬の内容を整理してもらえることになったわ!まだいろいろ話もあるだろうけど、またね!」


 機関銃のように話しまくって電話は切れた。


 どうやら薬の副作用の件は期待外れだった。少しガッカリしたが、まあ、薬も少し変更されるそうだし、これで計画した大半の状況変化の手段をやり終えたな、と安堵のため息をついた。しばらくはひたすら待つだけだ。


 2週間後、おかあさんは新しいデイサービスに通い始めた。この頃、一人で過ごされるときに一度も失禁がない日が見られるようになったとのこと。以前のような状態に戻ってきたようだ。


 それからまた2週間後、裕美さんと一緒にまたお家を訪ねた。室内はまったく別の部屋かと思うくらいきれいになっている。テーブル回りは基本的に配置や置いてある家具は変わっていないのにまったく別の印象だ。以前は尿臭が漂っていたが、今は臭いもしない。カーペットが同じ色調だが新しくなっている。


 娘さんの旦那さんの手作りの着替え用の椅子や蓋付きゴミ箱なども使いやすそうだ。見かけも良い。


 以前の手すりは壁との隙間が狭く使いにくかったが、新しく壁から大きく張り出した手すりがついていて、今ではおかあさんはそれを使って歩いたり体操をしているそうだ。この手すりも着替え用のコーナーも以前、娘さんと計画したものだ。その時は業者さんに入ってもらうと話していたが、結局旦那さんがおかあさん達と相談しながら作ったとのこと。


 その娘さんの旦那さんも今日は来ていた。明るく挨拶してこられたのでこちらもできるだけ愛想良く挨拶を返す。「良い人で良かった。今回の件はお父さんの参加が大きかった」と心の中で感謝した。


 娘さんが嬉しそうに話す。


 「これまでは週2回2泊してたんですけど、おかあさんと相談して週2回、日帰りで来ることになったんですよ。また以前のように一人暮らしをする気力が出てきたみたいでよかったです。全部先生のおかげです」


 「いえいえ、頑張られたのはあなたと旦那さんのお二人です。本当にご苦労様でした」何とか機会を捉えてお二人を労うことができたので少しホッとした。  


 しかし正直驚いた。旦那さんの参加や薬の変更、デイサービスにも少しずつ慣れて楽しく過ごしているという。なんだかトントン拍子にいろんなことが進んでいて、こちらが面食らってしまう。


 裕美さんも俺を紹介したことで娘さんからすごく感謝されていた。どうやらこれで俺も面目を保てると思った。


 娘さんと旦那さんと裕美さんで、ワイワイ賑やかに話をしている。旦那さんの部屋の模様替えの奮闘話らしい。


 俺はそばで聞くともなしにこんなことを考えていた。「今回はラッキーだった。ちょっと押しただけで、幸運にもいろんな良いことが雪崩の如く起きたんだな・・・・いや、俺は今回ばかりか、いつも幸運に恵まれている。いつも何か幸運が起きて上手くやってきたな・・・・ところで今回は何が原因でこんなに上手くいったんだ?部屋替えか、新しいデイサービスか、ささやかな体操か、薬の変更か?・・・・・まあ、良い。どうせ考えてもわからない。


 だがこのおかげでいつも最後はモヤモヤもする。いつも何が効果的だったかはわからない。ただ一度にたくさんのことをやってみたというだけだ。問題は解決しても、すっきりしないのは『犯人はお前だ!』という推理小説でお馴染みの結末がないからだな。皆が胸ときめかせるあの瞬間がないのだ。システム論を基にした状況変化のアプローチは、いつも最後、こんな感じになってしまう。リハビリ探偵と呼ばれても、こんな話では誰も面白がらないし、小説にはならないだろうなと思う・・・・まあ、良い。リハビリ探偵の役割は、犯人、つまり問題の原因を見つけることではなく問題そのものを解決することだからな・・・」


 「ねえ、新畑さん!」と裕美さんが突然話しかけてきて、我に返った。「ああ、そうですね」と何が何だかわからないまま間抜けに答えた。「まあ、新畑さん!また人の話を聞いてなかったわね!」と裕美さんが怒ったように言う。可愛い人だ。そして俺も話の輪に加わった。(終わり)

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CAMR超入門 よく目にする光景(その5)

目安時間:約 6分

≧(´▽`)≦
みなさん、ハローです!



「CAMR Facebookページ回顧録」のコーナーです。
今回は「CAMR超入門 よく目にする光景(その5)」です。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



CAMR超入門 よく目にする光景(その5)2014/1/29



 システム論を知ってから、もう一つ新たに気がついたことがあります。それは根本的アプローチを追求する中で、いつのまにか自分が理想に囚われていたことです。健常者の歩行をモデルに繰り返し、「いつか健常者の歩行ができるように」という理想的な目標に囚われていたのです。



 その目標はその当時、僕自身にも達成可能が疑わしいものでした。でも「目標は根本的な解決を目指す。それは困難で簡単な道のりではない。日々の努力を何年にもわたって続ける必要がある」と考えたりしていました。友人から「そんなことできないだろう」と言われると「それがどうした?諦める奴はそこでお終いなんだよ。俺は諦めが悪いのさ(どう、俺ってタフだろう?)」などと内心思っていました。



 そしてクライエントに諦めないで努力を続けるよう励ましていました・・



 でもシステム論を知ってから、健常者の歩行に近付くことこそ良いことだという思い込みはおかしいと思うようになりました。それは熊谷さん(「リハビリの夜」の著者。当ページのノートでも紹介中)が言うように多数派から少数派への同化思想だったのかもしれません。「障害者が努力して健常者に近付いてくることが当たり前」という考えに囚われていたのかもしれません。



 この考えに囚われていると、自然に努力のほとんどをクライエント自身に求めてしまいます。身体機能の低下から起きたADL問題なら、できるだけ身体機能を改善して、クライエント自身にADL問題を解決して欲しいと考えます。



 また「高い理想を持ち続け、諦めないで努力する過程に価値がある」と考える傾向があります。だから達成できなくても、「俺は素晴らしい目標に向かっているのだ」というそれなりの満足感があるのです。また達成できない理想を実現可能な目標に引き下げようとすると、そのこと自体を「敗北」と感じてしまいます。



 しかし「理想は簡単に達成できないから・・」と解決を先延ばしにすることは、実はクライエントにいつまでも問題を抱えて我慢してください・・と言っているようなものです。



 本当はクライエントは「問題を早く解決してください」と言ってきているのだと思います。それなのにセラピストの理想をクライエントの理想と勘違いし、押しつけ、励まし、いつまでも問題解決を放っておいたのだと思います。とても反省しています。



 今では僕の仕事はまず問題解決だと思っています。問題解決は途中の努力や掲げた理想は無意味で、結果こそが求められます。努力を続けたところで、実際に問題が解決されなければ、クライエントはずっと問題を抱えたままだからです。



 問題を先延ばしにすることはできません。通常なら誰しも問題は早く解決したいものです。だからできるだけ早く解決できるよう手助けしたい。



 さらにクライエントの望むような問題解決は不可能なことも多い。この場合「それは無理ですよ」と答えて済ますわけにはいかない。クライエントが希望する問題解決が無理でも、なんとかその苦労を軽減できるような他の解決案を提案しなくてはいけない。他の実施可能な手段を考え出したり、目標を達成可能な形に修正もします。問題解決にとって重要なのは「問題を少しでも早く、少しでも軽くするという結果を出すこと」なのです。



 しかしその道は困難で、上手くいかないことが多いです。でも以前のように「理想の世界」へ逃げこむわけにはいかないのです。(その6に続く) 


文責:西尾幸敏



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



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