俺のウォーキング:理学療法士らしく(その2)

目安時間:約 5分

俺のウォーキング:理学療法士らしく(その2)


 前回は俺の健康問題と膝痛問題の紹介で今回もその続きである。


 膝痛時の探索歩行は、歩行時の膝痛をなんとかしたいと始めたものだ。一応要素課題として、足・膝・股関節周辺のリリースとストレッチを行う。そして痛みを軽くする。時間があるときは、板跨ぎ(板の上に置いた患側下肢で支えながら、反対側で様々に跨いで戻る運動)やつま先立ちなどの等尺性の収縮運動課題も行う。その後、歩行速度や荷重の仕方、足を置く位置を少しずつ工夫しながら、痛みの減る、あるいは痛みの消える歩き方を探していくのである。


 通常膝の痛みがあると、痛みに対して保護的に脚を硬くして、かたくなに大地との接触を恐れ、避けようとして、接触時間を短くしようとするものだ。


 しかし人は元々無限に変化する大地を適応的に歩いてきたのである。それは無限の変化に対して、実に多様な体重支持や重心移動のスキルによって荷重・重心移動・振り出しを行ってきたからである。人の運動システムは無限の変化を起こして、適応してきたのである。だから本来同じように見えても膝を支えながら重心移動するスキルは無限に存在すると考えて良い。だからそれらの中には痛みを軽くするスキルが必ず存在すると信じて探すのである。


 つまり俺の場合は大地を避けるのではなく、逆に膝と大地が痛くないように一体化するような試みをするのである。絶え間なく大地との会話を行うようにしたのである・・・こういう表現をすると自然派宗教の教祖みたいでイヤだが、これが俺のリアルに一番近い表現なので仕方ない。


 実際比較的軽度のデイケア利用者でも、足・膝・股関節回りの柔軟性を改善した後に、色々試して歩いてみるとかなり痛みが軽くなったり、消えたりする歩き方を発見することができる。そしてそれを繰り返すのである。ポイントは最初に徒手療法で痛みの感じを変えることと、「痛くない歩き方が必ずあります」と囁くことである(^^; さらにこのとき大事なのは、たった一つの良い歩き方を見つけることが目標ではなく、その時、その場で楽になる歩き方を見つけることである。


「前回はこうやったら良かった」と考えることは参考にはなるが、それで必ず良くなる訳ではない。前回と今回では状況が異なるからである。だから良い歩き方を見つけてそれを覚えるのではなく、その時、その場で楽な歩き方を探索するやり方を発見、身に付けることである。


 これは認知症の比較的軽い高齢の利用者さんでもやり方を教えると同じような経験を報告してくれる。もちろん前提としてはある程度運動リソースに余力のある方である。(詳しくはCAMRの講義や動画などで)


 またこれは今回の「俺のウォーキング」でも大変役に立った。寒くなったりすると不意に膝痛が出てくることがある。また歳をとると、不意に思わぬところが痛んだりもする。そんな場合にも僕はすぐに探索歩行を始めるのである。探索歩行を始めてもう20年になる大ベテランである。だからほとんど無意識に探索歩行を始める。最近は「あれ、痛いな」と思うだけで、どうやっているのか知らないが運動システムが勝手に痛みのない歩き方をすぐに見つけてくれるようになっている。


 そしてこの「要素課題によって運動リソースを豊富にし、板跨ぎや探索歩行などの課題スキル学習で運動スキルを多彩にする」というこの二本立てのアプローチの内容が後にCAMRの骨格となったのである。(その3に続く)♯持続可能な社会のために!今、この場でできる事を考えてみよう!


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リハビリはADLに対して何ができるのか?(その1)

目安時間:約 3分

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「CAMR Facebookページ回顧録」のコーナーです。
今回は「リハビリはADLに対して何ができるのか?(その1)」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆


  秋山です。前の記事「リハビリは1回20分の訓練で何ができるのか?」のスピンオフです(^_^)



 ADLにどう関わるかは、西尾さんとしばしば議論するところでした。と言うより、「そうは言ってもねぇ・・・」と私が口ごもる状況でしたが。



 話を聞いて、腑に落ちる自分とそうは言ってもそれで良いのだろうかと戸惑う自分。前者は上手くいかなかった経験から感じ、後者は多分私が作業療法士だから「生活に深く関わらねば」という意識から考えることです。多くの方が「20分の訓練でなにができるか?その1」を見てくださっていますが、納得しつつもリハビリスタッフはADLを手放してしまっていいのか?と思う方もおられるのではないでしょうか。



 CAMRは、かつて批判された「クライアントの生活には目を向けず、訓練室で運動のことばかりやって結局クライアントの行動変化は見られない」状態に戻ろうとしているのではありません。「介護職がADL問題解決の専門家」とみなすことは、「チームとしてクライアントの課題達成を支えるとき、専門職としての役割を果たす」ことを放棄するものではありません。回りくどい言い方になってしまいましたが、ADLに対して今までとは違う支援のあり方があるのではないか、その方が現状に即しているのではないかと考えています。


 ADLに対するCAMRの公式見解が定まっているわけではないので、CAMRとOTの関係性が課題である私の意見になるのですが、ADLを状況的に見るとどうなるかを書いていこうと思います。その2に続きます。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆


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CAMR入門シリーズ② 治療方略について考える

目安時間:約 4分

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システム論の話をしましょう!」に続いて、CAMR入門シリーズの第二弾が出版されました!



西尾 幸敏(著)「治療方略について考える」CAMR入門シリーズ②



 リハビリの世界では、いろいろなテクニックや手技があり、多くのセラピストは様々な講習会や研修会などに参加し、それらの技術を身につけようと努力していることと思います。ところが治療方略となるとどうでしょうか?意外と意識が向いていない人が多いのではないでしょうか?



 しかし実際に何かのテクニックを用いるにしても、でたらめにテクニックを駆使しても必ずしも効果的ではないかもしれません。テクニックを戦術と考えれば、それを用いる戦略が必要になります。この戦略が、ここでいう治療方略にあたります。


もちろん、一般のセラピストもでたらめにテクニックを用いているわけではありません。きちんと治療方略に基づいて実施しています。ただ、その治療方略というのが養成校時代に習い、またそれ以前からも長く親しんだ方略がほとんど自動的に用いられていることが多いようです。



 本書では一般的なセラピストが養成校時代から慣れ親しんできた治療方略を、要素還元論に基づく「機械修理型治療方略」と分類しています。分類するということは別の治療方略も当然あるわけで、素朴なシステム論に基づく「多要素多部位同時治療方略」と「クライエント-セラピスト協働型治療方略」の二つが本書の中で紹介されています。



 たった一つの治療方略しか知らずに臨床に向き合うより、複数の治療方略を理解した上で状況に応じて使い分けた方が、問題解決能力が高まるであろうことは容易に想像できると思います。ちょうど龍馬君が試行錯誤の中で気づきを得て、見事問題を解決していったように。



 さて、本書で紹介されている素朴なシステム論は、西尾によるシステム論の分類でいえば、三つのうちの一番目になります。二番目、三番目の考え方に基づいて、治療方略もさらに広がりを見せて行くことでしょう。(システム論の分類については、シリーズ前作「システム論の話をしましょう!」に記載されていますので、興味のある方はこちらもご参照ください)



【目次】

CAMR入門シリーズ② 治療方略について考える
この本について
目次
第1章 治療方略再考
1.治療方略について考えることの意義
2.養成校で学ぶ治療方略
3.人とロボットの運動システムの作動の性質の違い
4.機械修理型治療方略への疑問
第2章 龍馬君がゆく
1.要素還元論に基づく機械修理型治療方略の限界
2.素朴なシステム論に基づく治療方略への気づき
第3章 「龍馬君がゆく」の解説
1.要素還元論から素朴なシステム論へ
2.一時的な変化と持続的な変化~運動システムの揺らぎ
3.問題解決の主導権は誰の手に?
第4章 素朴なシステム論によって生まれるアプローチの体系
1.言語化されない臨床知
2.素朴なシステム論の視点から理解した運動システムの作動の性質
3. 素朴なシステム論に基づく治療原理
4. 素朴なシステム論に基づく治療方略
編集後記
CAMR研究会について
著者紹介
著書



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CAMR入門シリーズ① システム論の話をしましょう!

目安時間:約 4分

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みなさん、ハローです!



ついに待ちに待ったCAMR入門シリーズの電子書籍が誕生しました!

西尾 幸敏(著)「システム論の話をしましょう!」CAMR入門シリーズ①



このシリーズは、CAMRのFacebookページに投稿された記事を中心に組み立てられていく予定です。特色はなんといっても、「わかりやすさ」と「楽しさ」だと思います。取り扱っているテーマやアイデアは決して簡単な内容ではありませんが、それゆえにこの二点を意識した工夫が随所にちりばめられています。内容の直感的な理解を助けるユーモラスなイラストなどはその代表的なものでしょう。



もっともこれらの工夫や試みが成功したかどうかは、読者の評価に委ねるしかありません。ぜひ本シリーズを手に取っていただき、評価者の一人としてもこの企画に参加していただけると幸いです。



さて、記念すべきシリーズ第一弾は「システム論の話をしましょう!」です。システム論のアイデアは抜群に面白いのですが、いざ臨床応用しようとすると何をどうすればいいのかわからず路頭に迷うという経験をしたことがあります。



そんなある意味捉えどころのないようなシステム論ですが、本書では明確に臨床応用に結びつけられた分類が提案されています。なかなか興味深い提案だと思うのですが、みなさんはどう思われるでしょうか?



アメリカでの徹底的な議論の末、Ⅱ step conference(1990年)においてリハビリの世界に産声をあげたシステム論は、早いものでもう31歳を迎えました。



「ようやく僕が活躍できる新しい舞台が出来てきたようだね。そろそろ出番かな?」



こんなシステム論の心の声が、さわやかな春の風にのって聴こえてくるようです。ぜひみなさんも耳を澄まして、この声を感じとっていただけたら嬉しいです。


【目次】
CAMR入門シリーズ① システム論の話をしましょう!
電子書籍発刊に寄せて
はじめに
第1章 システム論の分類
1.河本の分類
2.西尾の分類
第2章 素朴なシステム論的アプローチ
1.常識的な考え方の傾向
2.素朴なシステム論的アプローチ(第一段階)
3.素朴なシステム論的アプローチ(第二段階)
第3章 外部から作動を見るアプローチ
1.why?(なぜ?)の視点とhow?(どのように?)の視点
2.課題主導型アプローチ
3.運動をリソース(資源)とスキル(技能)の視点で見る
4.課題達成をリソースとスキルで説明する
5.アメリカの課題主導型アプローチの現場を見学して
6.課題主導型アプローチの問題点
第4章 内部の視点から運動システムの作動を見るアプローチ(CAMR)
1.内部の視点から運動システムを見てわかったこと
2.運動システムの作動の性質
3.問題解決が新たな問題を生み出す
第5章 システム論の視点のまとめ
1.リハビリに使えそうなその他のアイデア
2.人の運動システムの作動の性質を基にした治療方略へ
CAMR研究会について
著者紹介



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俺のウォーキング-理学療法士らしく(その1)

目安時間:約 4分

俺のウォーキング-理学療法士らしく(その1)


 俺がウォーキングを始めようと思ったのは、長らく務めた老健施設を退職する2週間前だった。居間に置いてあった女房の中年女性向け雑誌のウォーキングの記事が目にとまったからだ。退職後は新たな事業に取り組むつもりであったが、やはり気になるのは健康のことだ。やりたいことを続けるためにも健康問題は、とにかくとり組むべき重要課題である。


 何しろずっと高血圧の状態である。いつ測っても上は少なくとも150くらいである。「うーむ、これは大変である。なんとかせねば・・・」と思いつつ、ずっとほったらかしてきた(^^; それにやや肥満気味(^^; また30代に起こしたバイク事故の怪我後、右膝の変形性膝関節症にも悩んできた。44歳の時、階段を降りていたら右膝が膝折れを起こしそうになった。「こけるかと思ったぜ!」と、見てみると右膝は浮腫の状態でぷっくらと膨れ上がっていた。力が入らなかったのである。時々痛みも起こし、MRIでみると半月板などはぐちゃぐちゃになって消失し、軟骨もすり減っている状態であった。


 「まだ若いのに・・・」と不安に駆られた俺は、早速サプリメントを買って飲んだのだ。結局わかったのはサプリメントを飲んでいても痛いときもあれば、痛くないときもあるのである。もともと飲んでいなくても痛いときもあり、痛くないときもありの状態であった。結局、「ややや!同じではないか!」つまり効果はないというのが俺の結論である。


 もともと初期の変形性膝関節症は痛い時と痛くない時をくり返すものである。もし痛いときに飲んだらそのうち痛みは軽くなるが、別に飲まなくたって軽くなるのである。ただ心理的には、解決手段があると言うのは心強いものである。「痛くなれば飲めば良い」という問題解決の選択肢は大きな安心感になるだろう。


 だが解決の選択肢がサプリメントだけだと、徐々に悪くなることが予想される。膝関節は有り余る筋力と多様な筋活動のスキルでもって安定性と運動性を保証されている関節である。


 変形性膝関節症の多くは、運動不足や活動性低下などによって貧弱になった筋力やスキルのために関節の機能低下が起きたためと考えられる。俺もちょうど44歳の頃は、肥満と運動不足の絶頂期であった。


 もしサプリメントを飲んだだけで、適切な運動をしなければ、そして更に肥満などが加わると余計にストレスがかかり、膝関節の機能は更に低下して、変形性膝関節症は重度化していくのである。


 僕の場合、サプリメントの失敗の後は理学療法士らしく、「探索歩行」と「いくつかの運動課題設定プログラム」を工夫して痛みを改善してきた。今は通常痛みを感じることはないが、普段しない活動(斜面での草刈り、バトミントンなどで頭に血が上って無理な動きをする(^^;など)で痛みが出るときもある。しかし上記のプログラムをくり返しながら、なんとか痛みは改善した状態を維持している。このプログラムは実際、デイケアなどで痛みを訴えて訪れる利用者の痛み改善にも大いに役立ったものだ。(その2に続く)

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リハビリは、1回20分の訓練で何ができるのか?(その3)

目安時間:約 3分

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「CAMR Facebookページ回顧録」のコーナーです。
今回は「リハビリは、1回20分の訓練で何ができるのか?(その3)」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



リハビリは、1回20分の訓練で何ができるのか?「その3」



 「その1」では、リハビリスタッフこそが「運動余力」を最も有効に改善できる専門家である、と述べました。また「その2」では「運動余力の改善」と「従来の運動機能改善」とは違っていることを説明しました。


 さて、では実際に運動余力の改善はどう行うか?一つにはクライエントの希望に沿った運動課題を工夫していくことです。人は適切な運動課題を通して、必要な運動リソースを豊富にし多様な運動スキルを発達させることができます。



 もう一つは柔軟性を徒手療法で変化させたり、環境調整や自助具、介助者のシステムなどを持ち込んだりと運動リソースを直接変化させることです。さらに痛みは運動リソースやスキルの出現を邪魔するので、可能なら痛みの軽減を図ります。こうして構成要素間の関係と運動リソースの両方に同時にアプローチします。



 この視点に立ってクライエントに接するうちに、以下のことに気がつくようになりました。


  1. クライエントは見た目以上に沢山の「隠れた運動余力」を持っている。が、クライエント自ら動くまではこれらに気がつかれないことが多い。
  2. 良循環と呼ぶべき状態がある。急性期や軽度のクライエントでは、ほんの少しの運動課題達成の経験によって、「隠れた運動余力の発見→活動の多様化→更なる運動余力の改善・・」といった良循環に入ることが多い。
  3. 逆に「袋小路」と呼ばれる状況に陥るクライエントも多い。「偽解決」や「貧弱な解決」をひたすら繰り返し、「隠れた運動余力」に気がつかれない。脳性運動障害や高齢者などのケースが多い。セラピストには、袋小路からクライエントを救い出す知恵と工夫が必要である。
  4. 急性期に、運動余力の改善を図らないでいきなり歩行のような動作訓練を行うと、貧弱な解決(たとえば患側下肢支持期の膝伸展ロック)のような安易な方法を取ってしまうため、袋小路に入りやすい。


 20分という時間は少ないものの、運動余力の探索と改善に焦点を絞り込むことで、リハビリ訓練の効果を生み出すことができます。(詳しくは講習会で・・・・)



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



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正しい歩き方?-そんなに形が大事か?(その4 最終回)

目安時間:約 4分

正しい歩き方?-そんなに形が大事か?(その4 最終回)


 さて、僕としては今回は、機能や運動システムの作動の性質を基に「正しい歩行」とは何かを提案し、その実践に当たった男の苦難の記録を述べることが目的でした。


 しかし!次回の投稿の後でまた新たに以下のような意見を頂いてしまったのだ。


 「あなたの言うこともわからないでもないが、患者さんの中には『私はきれいに歩きたい』という人も実際にいるのだ。そんな人の要望にも応えることは必要ではないか?」


 実は15年くらい前に上田法の講習会でシステム論の講義をするためにドイツを何度か訪れた。その時一人の高齢の女性PTから同じようなことを言われた。それは講習会の最後の講義の一つ前の休憩時間だった。「システム論では歩けば良いみたいなことを言うけれど、私はイヤだ。どうせ歩くなら健常者のようにきれいな形で歩きたいのだ。あなただって歩く姿は気になるはずだ。だから私にはシステム論は不要だ」のようなことを言われた。その時の僕にはまだはっきり答えるだけの準備はできていなかったし、あいにく通訳もそばにおらず、講習会の最後の方でバタバタしていて、僕の英語ではほとんど何も伝えられなかった。今でも大きな心残りの一つである。


 今ならこんな風に伝えるのではないか。「では健常者のように歩けないなら、あなたは歩くのを止めますか?僕なら、歩けるようならどんな形であれ歩きたい。 それに人前で歩くのが恥ずかしいと思っている患者さんのために『頑張れば健常者のように歩けるよ』と嘘も言えない。


 僕にできることと言えば次のように正直に説明することだ。『一緒に協力すれば今より早く、安定して歩くことは可能かもしれない。その結果、今とは異なった歩行の形になると思います。今より少しは颯爽としているし、今より力強い形になっているかもしれない。でも元通りの健康な頃の形で歩くことはできないと思います。


 でもあなたは最初寝たきりの状態から、座って立って、ものすごい努力と勇気でここまで歩かれるようになってきた。これはものすごいことだ。とても困難な状況にチャレンジしてなんとか歩けるようになったのです。あなたの歩行は努力の結晶です。あなたはもっとその歩き方を誇りに思って良いと思います』と。


 もしそれでも『健常者の歩行に近づきたい』と言われれば『もし僕で良ければ、僕のできる範囲で最大限努力する』と伝えます。それは患者さんからの希望だから。その時点でもう断られるかもしれないが(^^;


 ただ最初からセラピストが『患者は健常者のように歩くべき、美しく歩くべき』という単一の価値観を持って患者さんに当たるのは間違いではないか?『とりあえず歩いて、早く家に帰りたい』と思っている患者さんもいるだろう。たしかに僕たちとしては最大限患者さんの希望に添うべきだ。セラピストの価値観だけで、訓練の方針と内容を決めるのもおかしいと思う。セラピストとして自分のできる事を正直に伝えて、患者さんにどうするかを選んで貰うことが基本では?」


 さて、あなたはどう思うだろう?(終わり)(申し訳ない。今回のシリーズはこのタイトルをつけてしまったので、この流れになってしまいました。僕のウォーキング物語はまた別のシリーズで改めて書きます)

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リハビリは、1回20分の訓練で何ができるのか?(その2)

目安時間:約 3分

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「CAMR Facebookページ回顧録」のコーナーです。
今回は「リハビリは、1回20分の訓練で何ができるのか?(その2)」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



リハビリは、1回20分の訓練で何ができるのか?「その2」



 「その1」の投稿へいくつか意見をいただきました。たとえば「運動余力の改善は当たり前としても、運動機能改善に偏りすぎているのではないか?」というものです。(なんだか厚労省の介護予防のご意見いただいたみたいです(^^))これについてはいろいろあるのですが、一つだけ紹介しておきます。



 このアイデアを理解するためにはCAMRにおける「運動リソース」という言葉の意味を理解しておく必要があります。運動リソースは運動に使われる資源のことですが、普通は「からだ」のことをイメージされると思います。しかしシステム論を基にしていますので、システムは目に見える構造ではなく働きで考えられます。たとえば水溜まりでは水溜まりなりの、氷の上では氷の上なりの歩行の形が現れますので、水溜まりや氷が運動システムの一部として歩行を生み出していると考えられます。身体は真空中で動いているのではなく「環境」の中で「環境を資源」として利用しながら働いているのです。それで環境内のものや人や動物もその時々で運動リソースとなっている訳です。



 たとえば家庭内にある手すりは、元気なおかあさんにとってはタオル掛けとして使用されますが、片麻痺のおじいちゃんにとってはからだのバランスをとるための大事な運動リソースとなります。手すりをからだのバランスをとるために使うには、それなりの運動スキルが必要です。(更に詳しくは講習会で)



 電動車椅子は指先の動きを移動に変えるための運動リソースです。こう考えるとテクノロジーの進歩で新しい介護機器などが生まれてくるに連れて、運動リソースは無限に増えていきます。介護保険制度化で訪問介護が始まると、「介助者」という運動リソースも一時的に運動システムに参加する訳です。「運動余力の改善」が、世間で言う「運動機能改善(筋力や持久力の改善など)」とイコールにならないのはこのためです。(その3に続く)



(なお秋山が「リハビリはADLに対して何ができるのか?(その1)」というこのシリーズのスピンオフを開始していますので、そちらの方でも何かしら説明があると期待しています(^^))



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



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正しい歩き方?-そんなに形が大事か?(その3)

目安時間:約 3分

正しい歩き方?-そんなに形が大事か?(その3)


 前回の投稿の後、ある病院で働く新人セラピストから次のようなメッセージが届いた。


 彼の片麻痺の担当患者が、いくつかの運動課題と歩行練習を繰り返して、歩行速度が速くなった。歩行速度とADLの関係のデータを基にして、彼の主任に「歩行も実用的になってきた」と報告した。するとその主任は「歩行は早くなっただけではダメだ。私はより美しく歩くことも必要だと思う。いや、私は美しく歩かせたいのだ。私が見たところ、体幹の硬さが問題だと思う。体幹をリラックスさせて、より美しい歩き方ができるように目指しなさい」と言われて面食らったそうだ。まさしく前回述べたことがそっくりそのまま起きていたらしい。


 機能改善は褒められず、美しさの改善だけを言われてガッカリしたし、困ったそうだ。そして美しさって若い健常者の歩き方?と悩んだそうだ。そんなことができるのか?と悩んだそうだ。


 しかし「私がきれいに歩かせる」には驚いた。こんなことを言う人もいるのだ。自分の姿勢や運動を変えることだってなかなか難しいのに、障害のある他人の運動を「思い通りに変化させる」などととんだ思い上がりではないか。他人の運動を支配できる人などいない。そんなことを言うならまずマヒを治して見せるべきだろう。


 そもそもセラピストが美しい形、健常者からの形のズレでしか運動を評価できないとは情けないことである。形で見る限り健常者の運動の形とのズレを問題にし、障害のある方にも健常者の運動に努力して近づくように無理な要求をしてしまうことになる。


 逆に言えば機能や運動システムの作動の特徴から運動を評価することができない、そしてそれで人を説得することができないということである。つまり機能や作動の特徴に詳しくないと自ら言っているようなものである。これは情けないことである。そもそもそれこそが私たちの専門性ではないか?


 しかし僕がこのことをその新人セラピストにメールしたもので、新人さんは少し腰が引けたのだろう。「でも良い人なんですよ」と返してきた。いや、良い若者だ。いい歳をして、大人げなくてごめんなさい。


 リハビリ界でも「美しさ」という価値観の影響は強くあるが、機能より美しさに遙かに重きを置いているこんなセラピストが支配的でないことを心より強く願う。いや、我々の職業のこの多様性こそを喜ぶべきなのか?よくわからなくなってきた。


 今回はまたまた話が逸れて、前置きが長くなってしまった。次回こそ、困難なウォーキングに挑む男の苦難の記録である(^^;))(その4へ続く)

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リハビリは、1回20分の訓練で何ができるのか?(その1)

目安時間:約 3分

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「CAMR Facebookページ回顧録」のコーナーです。
今回は「リハビリは、1回20分の訓練で何ができるのか?(その1)」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



リハビリは、1回20分の訓練で何ができるのか?「その1」



 僕がPTとして介護保険施設で働き始めて5年が経ちました。働き始めた当初、クライエントのADL問題に関して介護スタッフから色々な質問や相談が寄せられました。どうも当施設の介護スタッフには「ADL問題の解決はリハビリの専門家の助言が絶対必要」といったイメージがあったようです。



 当然僕がそれぞれのADL問題の解決に適切に応えられる訳がありません。たとえば機能改善が余り起きない重度の方の排泄では、オムツの選択やあて方の工夫などが必ず必要になります。介護スタッフの方が元々知識もあり、生活のほとんどの場面で世話をして状態に精通し、問題解決の様々な方略を生み出しやすい立場にあります。どう考えてもADL問題の解決は、介護スタッフが専門にするべきなのです。(結果、当施設の介護スタッフは現在「ADL問題解決の専門家」として非常に頼りになる存在になっていますv(^^))



 となると実際1回20分、週数回の訓練しか行わないリハビリスタッフに何ができるでしょうか?



 僕がCAMRの普及が必要と考えている一つの理由はここにあります。1回20分をどう有効に使えるか、使うべきか?CAMRが人の運動システムの作動の性質を明らかにして、進むべき道を示してくれます。以下のようなことです。



1.人は生まれながらの運動問題解決者。セラピストがクライエントに正しい運動方法を教え、管理する必要はありません。
2.人が今よりも問題解決者として能力を発揮するために必要なのは何か?それはより十分な「運動余力」です。運動余力とは豊富な「運動リソース」を基に発展させた多様な「運動スキル」であり、それらの運動スキルを上手く組み合わせて問題を解決する「運動方略」です。そして「運動余力」の改善なら1回20分のリハビリでできるのです。いえ、リハビリこそが最も有効になしえるのです。(「その2」へ続く)



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



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