システム論の話をしましょう!(その15 最終回)

目安時間:約 6分

システム論の話をしましょう!(その15 最終回)

 このシリーズでは駆け足でシステム論の3つの分類とリハビリで使えそうなアイデアを検討し、紹介しました。結局、システム論というのは運動システムがどのように作動するかという「作動の性質」に焦点を当てて説明しようとしていることがわかると思います。

 これまで学校では運動システムを皮膚で囲まれた目に見える構造として習ったと思います。そしてこれを基にして部位毎、あるいは構成する要素毎に問題を探し、問題のある部分を治すという治療法略を習ってきたと思います。(治療法略とは治療の目標設定とその目標達成のための計画と方策です)

 でもこの治療法略の考え方は機械の修理と同じであることが分かると思います。機械を構成する部品毎に不具合を調べ、問題のある部品を直したり交換したりして修理しますよね。学校で習う治療法略はまさしくこの機械の修理と同じで、問題のある構成要素と部位を特定し、全体の問題との間に因果関係を想定するのです。そして問題のある構成要素と部位に働きかけて治そうとします。

 たとえば歩行不安定の方の検査をすると、下肢の筋力低下が見られ、可動域には問題がなかったとします。すると下肢筋力低下が歩行不安定の原因と因果の関係を想定し、下肢筋力強化を行うのです。このようなものの見方は「要素還元論」と言います。

 でも実際人の運動システムではそのような単純・直線的な因果の関係は成り立たないことが多いのです。人の運動システムは様々な要素が影響しあっている複雑なシステムです。たとえば慢性痛は身体構造の一部位の変形で起きているだけでなく、心理的な要素や生活習慣なども影響しています。逆に身体構造に問題があってもプラセボ手術で治ったりすることもあります。また慢性痛が1つの部位を原因として起きている訳ではなく、筋膜などを通じて全身の各部位と影響し合っていることも知られていますよね。

 もちろんこの治療法略で治ることもあるのですが、ともかく単純・素朴な因果関係を想定するような治療法略は、現実には壁に当たることも多いと思います。それはこの治療法略が、人の体を機械として捉えるデカルト以来の西欧文明の伝統を基にしているからです。

 一方システム論の視点は、運動システムの作動の性質を明らかにしていくので、それを基にした治療法略は学校で習ったものとはまったく異なっています。

 たとえば「素朴なシステム論」のところで検討したように、多要素・多部位同時方略のような治療法略はシステムの作動の性質を基にして考えられたものです。ある臨床家が膝の痛みが膝周辺のリリースで一時的に改善することを経験します。そして一時的には良くなりますがしばらくするとまた元の痛みに戻ってしまうことに気がつきます。これは元々膝周辺の筋膜が硬くなる・短縮するような状況の中で生活しているからです。その状況に影響するのは姿勢だったり、仕事内容だったり、運動不足などの生活習慣だったり、もちろん身体的な素因など色々とあるのでしょう。

 このことに気がつくようになると、治療法略は「筋膜リリースは膝周辺だけでなくもっと広範囲に行われる必要がある」し、姿勢や運動の偏りをただす必要も出てくるし、生活習慣や仕事をするときの環境を調整する必要もでてきます。このように「膝周囲の筋膜の癒着・萎縮が原因」とする単純・素朴な因果関係は意味がないと知り、「多要素・多部位同時方略」に移行するのでしたね。

 同様に動的システム論や生態心理学の視点からは、「自己組織化」というアイデアから「セラピストが支配的に患者の運動をコントロールして思い通りの運動学習をさせることはできない」ということを知ったり、「課題達成の運動は適切な課題を通して組織化される」とか「身体のコントロールはその限界を知って初めて獲得される」とか様々な運動システム作動の性質を知ることができます。(このシリーズでは紹介していないアイデアがまだ沢山あります)

 またオートポイエーシスの視点からは、「人の運動システムは必要な運動課題を達成しようとするし、課題達成に問題が起きると問題解決を図る」という性質を知ることができました。そうすると脳卒中後に見られる現象がすべて症状ではなく、運動システムの問題解決が混じり合った状態であること。また問題解決によって新たに問題が生じていることを知ることができ、更に新しい治療法略を組み立てることができます。

 このようにシステム論を学ぶことで人の運動システムの作動の性質がより分かるようになり、それを基にした新しい治療法略を考え出すことも可能になります。 CAMRではシステム論を基に人の運動システムの様々な作動上の性質をまとめ、それらを基にした治療法略を提案しています。皆様の治療法略を充実させる上で参考になると思いますので、講習会再開後には是非とも受講されることをお薦めします(^^)v(終わり)

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システム論の話をしましょう!(その11)

目安時間:約 5分

システム論の話をしましょう(その11)


 さて最後は「内部の視点から運動システムの作動を見るアプローチ(CAMR)」の紹介です。


 CAMR(Contextual Approach for Medical Rehabilitation:医療的リハビリテーションのための状況的アプローチ)は、これまでの「素朴なシステム論」の経験や「外部の視点から運動システムの作動を見るアプローチ(課題主導型アプローチ)」などのアイデアを取り込みながらここまで発展してきています。


 そしてこんどはこの第3世代システム論と言われるマトゥラーナとヴァレラのオートポイエーシスの中から使えそうなアイデアや視点を取り込んで現在の形になっています。


 オートポイエーシスでは「運動システムの境界は自らの作動で作られる」とか「システム内部の視点で作動が語られる」といったアイデアがあります。(これらについての詳しい説明はしません。興味のある方は彼らの本を読んでみてください。なかなか難しいです(^^;)


 最初これらのアイデアを臨床でどう使えば良いかを悩んでいたのですが、結局、単純ですが運動システムの立場になって何が起きているかを考えてみようと思い立ちました(イヤ、実に単純(^^;))つまり「システム内部の視点で作動を説明してみよう」と考えたのです。そうすると不思議なくらい「確かにその通りだな」と腑に落ちることが沢山ありました。


 たとえば起立を考えてみましょう。認知症の方に「立ってみましょう!」と勧めます。すると1-2回試して「できん、立てん」と言われます。少し試みて、立てないと分かったんだな、と納得します。しかしその患者さんが夜中に立ち上がろうとして転倒したという事故報告を翌日に聞きます。患者さんの外部から見ていると、「身体状況をよく認知していなくて無理したんだな」と思ったりします。


 しかし運動システムの立場から考えるとよく知らないセラピストにいきなり「立て」と言われてもあまり立つ意味が感じられないので課題達成にはあまり熱心ではないのかもしれません。でも夜中に立ったときは立つべき必然があったので、なんとか立とうと頑張ったのだと思います。


 つまり運動システムは人にとって必要な課題はなんとか達成しようとしますが、意味や価値が低ければあまり熱心ではないのです。そして必要性というのは状況に左右される訳です。つまり運動システムの立場から状況と運動システムの作動を理解することが重要です。


 また外部の視点から運動システムの作動を見ているときも気がついたのですが、もし課題ができないと、課題達成に利用できそうなリソースを身の回りに探し、その利用方法であるスキルを試行錯誤します。これは内部から見てもその通りで、なんとか課題を達成しようといろいろなものを利用しようと一生懸命なのです。


 そうすると、運動システムは必要な課題はなんとか達成しようとするし、そのために利用可能なリソースを探し、スキルを実際に試してみるものなのです。また達成できないときは、なんとか問題解決を図ろうとするものではないか、と気がつきました。できなければ必ず問題解決を図るのではないか。もしそれが必要な課題なら!


 「人の運動システムは必要な課題を達成しようとするし、ダメなら問題解決を図ろうとする」単純ではありますが、「これが人の運動システムの基本的な作動の性質の一つではないか!」と思えてきました。


 確かに腰痛が出た時に歩く必要があれば、体幹を硬くしてなんとか痛みを防ぐという問題解決を無意識に図りますよね。他にも沢山の問題解決が見られます。腓骨神経麻痺で下垂足になると膝を高く上げてつま先が引っかからないように歩きます。


 そうすると・・・ 脳性運動障害では、障害後に見られる現象はすべて症状と見なされています。ジャクソンが脳性運動障害後の現象を症状として陰性徴候と陽性兆候に分類したように。でも先の仮説、「人の運動システムは問題が起きると必ず問題解決を図るのだ」と考えると全部が全部症状ではない、と考えられるのです。


 「そうだ!脳性運動障害の人は一方的に症状に打ちひしがれている弱い人ではないのだ!僕たちは精一杯障害に立ち向かっている姿を見ているのではないか!」(その12に続く)

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システム論の話をしましょう!(その1)

目安時間:約 3分

システム論の話をしましょう!(その1)
 システム論と一言で言ってもいろいろなものが存在します。様々な視点、様々な枠組み、様々な分野・目的などから生まれてきているからです。



 システム論を説明するために使われる有名なマトゥラーナの3つの分類、第一世代(動的平衡系)、第二世代(自己組織化)、第3世代(オートポイエーシス)ですが、これは我々臨床のセラピストにとっては難しいですし、「それがどうした?」という感じでもあります(^^ゞそれぞれの本を読んでも物理学の用語だったり、難解なアイデアが続々と出てきて読むのも嫌になってきます(^^ゞ



 かといってせっかくの面白そうなアイデアがあるのに僕たちの仕事に応用・利用できないのも悔しいですよね。だからここでは思い切って、自分なりの理解で、日常生活用語で、そしてシステム論を臨床で応用できるように興味のあるアイデアを取り出し、簡潔にまとめてみようと思うのです。つまりシステム論を臨床で僕たちの問題解決に使える道具として、簡単にまとめてみようと思っています。まあリハビリのセラピスト向けのシステム論の地図を作ってみようというのがここでの試みです。



 もちろんそのためには正確さや詳しさは多少なりとも犠牲になります。まあ現場ではデフォルメと簡略化された手書きの地図の方が道案内に役立つこともあるわけです。つまり詳しすぎる精緻な地図は現場で移動しながら目的地を探したり、現地で照らし合わせるのが大変だからです。目的に合った地図が必要と言うことですね。だから部分的に必要なアイデアを取り出して簡略なセラピスト向けの地図を作ってみるのも現場では大いに役に立つと思います。



 さてここで使われるのは西尾の分類(未発表)です。以下の通り。

  1. 素朴なシステム論的アプローチ
  2. 外部の視点から運動システムの作動を見るアプローチ(課題主導型アプローチ)
  3. 内部の視点から運動システムの作動を見るアプローチ(CAMR)

 どうかいろいろな意見や感想を頂けるとありがたいと思います。(その2へ続く)

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知恵の樹を読む!(その3)

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今回は「知恵の樹を読む!(その3)」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



知恵の樹を読む!(その3)2013/2/3
前回の続きです。



 マトゥラーナらは、外部にあるいかなるものについての経験も、「そのもの」が”描写”の中に立ち現われてくることを可能にする人 間の構造によって、特別のやり方で価値づけられて[有効化されて]いる、と続けます。「認識」という現象は、何か客観的な事実や対象があらかじめ存在し、その表象を受け止めることではありません。僕たちの人間としての存在にかかわるさまざまなプロセスが、僕たちの認識を作り上げるのです。



 ここで箴言を二つあげています。
 「すべての行為は認識であり、すべての認識は行為である」
 「いわれたことのすべてには、それをいった誰かがいる」



 認識という行為にかならずつきまとうこれらの性格は、いわゆる客観的・科学的と考えられている立場からみると、まるでつまづきの石か、エラーか、根こそぎにしなくてはならない説明上の残りカス だと思われています。そのため、前回取り上げた色彩の知覚におい ても、目の「錯覚」というふうに言われてしまいます。光の波長に基づいた客観的・科学的な了解の仕方が「正しく」て、そうでないものは「錯覚」だと。



 しかし、認識がもつこれらの性格は、やっかいな残りカスや障害ではありません。認識を理解するための重要な鍵なのです。僕たちがどこからやってきてどこにゆくのかということを、いつも思い出させてくれる、二つの導きの灯のようなものだと考えなくてはならない、と言います。



 堅苦しい文章が続いてすみません。なかなか難しくてよくわからない部分も多いのですが、とりあえず以下のような感じで了解しています。おかしかったらご指摘・ご教授お願いします。



・認識と行為は分けることができず一体である、そしてそれは、そ の時その場の状況における自分と世界との相互作用の結果創出される
・ある認識について語る時、記述する時には、必ず「観察者の視点 」で語り、記述している(ということは、視点が異なれば認識も異なる )



 「知恵の樹」の続きは、次のシリーズ「オートポイエーシスを読む!」に統合していきます。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



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知恵の樹を読む!(その1)

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今回は「知恵の樹を読む!(その1)」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



知恵の樹を読む!(その1)2013/1/26
\(^o^)/田上です。お疲れ様です。
 CAMRホームページの「人の運動変化の特徴」(その3)の中で 、おススメの書籍が紹介されています。ウンベルト・マトゥラーナ 、フランシスコ・バレーラ;「知恵の樹」,管 啓次郎訳,朝日出版社,1987.(文庫本にもなっています。ち くま学芸文庫,1997.)



 マトゥラーナとバレーラ(ヴァレラと日本語表記されることもある )といえば、「オートポイエーシス」の提唱者として高名ですね。 これは僕にとっては驚天動地の書です。凝り固まった頭を、脳天か ら金槌で「ガツン」とぶん殴られたような感じです。



まずは目次を紹介しておきます。
第一章 「いかにして知るのか」を知る
第二章 「生きていること」の組織
第三章 歴史 生殖と遺伝
第四章 メタ細胞体の生活
第五章 生物のナチュラル・ドリフト
第六章 「行動域」
第七章 神経システムと認識
第八章 「社会」現象
第九章 「言語域」と人間の意識
第十章 知恵の樹



 とても知的好奇心が刺激されるラインナップですね! 興味を持たれた方は、是非ご一読ください。 (その2へ続くかどうか未定です。なにしろ、僕にはこの本の内容 がよく理解できていないのです・・・)



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



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CAMRとは?(その5)

目安時間:約 4分

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さて、原因解決アプローチが効力を発揮できる「ある条件」とは何でしょうか?

大きくは二つあげられると思います。

一つは、「原因と結果の因果関係が明確な場合」が考えられます。

といいますか、この因果関係が明確でなければ、そもそも原因解決アプローチは成り立ちません。問題の原因を探し出して、その原因を改善することがこのアプローチの売りですので。

しかし、僕たちが日常経験する諸々の問題においては、明確な因果関係を想定できることというのは、実はそれほど多くありません。

多くの問題は、複数の原因らしきものが複雑に絡み合って明確に原因を特定できなかったり、そもそも原因がわからないといったこともよくあります。

特に対象とするもののシステムや仕組みがよくわかっていない場合には、単純に因果関係を想定することが難しいと言われており、ともすると間違った因果関係を想定してしまうことさえもあり得ます。

このことを説明するときに僕たちがよく引用する例を以下に紹介します。マトゥラーナ、ヴァレラ著「オートポイエーシス-生命システムとはなにか」という本の巻頭言にビアが挙げている例です。

例えば、今まで自動車を見たことがない人がいたとします。

ある時その人の前で自動車が止まって動かなくなりました。するとドライバーが出てきて、ボンネットのふたを開け、ラジエータに水を入れました。しばらくすると再び自動車は動き出して、その人の前から走り去っていきました。

この場面を見てその人は、「ああ、あの人を乗せて走る金属の物体は水で動くんだ!」と思ってしまうかもしれません。

といった感じなのですが、いかがでしょうか?

僕たちは自動車の仕組みを良く知っているので、この場面を見ても「自動車が水で動く」という因果関係は想定しません。自動車がガソリンで動くことは当然のこととして知っています。

この場面では、きっとラジエータ液が不足してオーバーヒートを起こしたので、ラジエータに水を補給したのだろう、と想定するでしょう。

しかし、自動車のことをまったく知らない人がこの場面を見たらどうでしょうか?

その人が見たものはまさに、「自動車が止まる」→「水を補給する」→「再び自動車が動き出す」という場面なのです。

「自動車が水で動く」と判断してしまうのも無理はないかもしれませんね。

さあそれでは、人の運動に関してはどうでしょうか?

実は人の運動システムについては、まだよくわかっていないことがたくさんあります。よくわかっていないシステムにおいて安易な因果関係を想定すると、間違えてしまう可能性がある、ということは理解しておいていただきたいと思います。

続く・・・

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