システム論の話をしましょう!(その8)

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システム論の話をしましょう(その8)

 今回は「課題達成をリソースとスキルで説明する」というアイデアの有効性についてもう少し検討してみます。


 従来学校で習う視点では、起立ができないと四頭筋などの筋力検査を行い、弱っている筋の筋力を改善するというアプローチを学んできました。つまりシステムの作動ではなく、構造を中心に考えます。特に四頭筋が弱っていれば、座位でおもりやゴムベルト、徒手などで四頭筋力を増やすという方法もよく行われてきました。


 しかしこれではリソースの改善だけを考えたアプローチになってしまいます。座位で四頭筋だけ鍛えれば起立できるかと言えばそうでもないからです。たとえば「椅子に座って、おもりを足首につけて膝を伸ばす」課題は、四頭筋筋力を改善するためによく用いられる方法ですが、これをスキルの視点から見ると「骨盤と大腿を座面で固定され、下腿を持ち上げる」というひどく単純なスキルを練習していることになります。


 でも実際に起立では、四頭筋は「座位での広い基底面から、脚だけの狭い基底面に大きく前方・上方へ重心を移動しながら、なおかつその狭い基底面内に重心を保持して身体全体を上方に持ち上げることを他の全身の筋群と協調しながら行うスキル」の中で働いているのです。 


座位でのおもりをつけての四頭筋訓練はほぼ筋繊維を太くしているだけで起立に必要なスキル学習はまるっきり行っていないのです。起立に必要なスキルは全身的なものです。起立が危うい人は全身的に試行錯誤を通して必要なスキルを学ばなければなりません。つまり起立できるようになるためには実際に起立練習をして、起立のためのスキルを学習する必要があるのです。


 座位で筋トレをすれば、また改めて起立練習で起立のためのスキルの練習をし直す必要があります。もちろん起立練習が到底無理なら、座位でまず筋繊維を太らすことには価値があると思います。しかし、少し手伝ったり、椅子の座面を高くしたり、前方の手すりを用意したりと利用可能なリソースを増やしてあげることによって、起立の課題達成がなんとか可能なら、最初からそのような形での起立の繰り返し練習をした方が効率的だし患者さんの達成感や満足感も上がるでしょう。 


またリソースとスキルという視点で見るとこれまで理解できなかったいろいろな運動の現象が理解できるようになります。たとえば運動学習の効果の転移です。有名なところではテニスのスキルはラケットで球を打つ同じような運動の形に近い卓球には転移しないのに、形はまったく似ていないスピードスケートと自転車競技の間では明らかに運動学習効果の転移が見られます。(日本でも冬のオリンピアであるスピードスケートの橋本聖子さんが夏のオリンピックの自転車競技の代表になって話題になりました)


 実は運動の形は似ていなくてもスピードスケートと自転車競技は、スキルの視点からはとても似通っていることがわかります。どちらも「狭い基底面を持つ道具の上で、バランスを保ちながら左右交互に重心移動をし、体重移動した片脚を力強く下方に踏みしめる」というスキルが共通しているのです。リソースや運動の形はまるっきり異なっていても、似通ったスキルを使う課題同士なら運動学習の効果の転移が起こるというわけです。


 だから歩行を改善するなら、「立位でバランスを保って交互に左右への重心移動をしながら、片脚で体重支持しては体重支持しない方の片脚を持ち上げるような運動課題をすれば、これで身に付けたスキルは歩行へ転移する」と考えることができます。


 またどのリソースをどのように使うかを見ることで、より実際的な運動分析を行うことも可能です。(CAMRではこれを「Resource-Skill Analysisリソース-スキル分析。RSAと略す」と呼んでいます)たとえば前方の手すりと上肢で主に前方への重心移動に使っているのか、体の持ち上げに使っているのかを見ることで運動システムが何を苦手にしているかが分かります。片手で手すりを持ち、前方への重心移動に使っているなら、わざわざ手すりと片手というリソースを「前方への重心移動」のために使っています。つまり前方への重心移動が苦手なのです。この場合、「体幹の柔軟性リソース」を改善して「手すりと片手というリソース」と置き換える、つまり手すりがなくても起立ができるようにすることもできます。(その9へ続く)

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CAMRの旅お休み処 その4

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今回は「CAMRの旅お休み処 その4」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



CAMRの旅お休み処 その4
「運動リソースという見方」2013/1/24
 リソースとは「資源」という意味です。運動リソースとは、まさに運動を起こすための資源です。あまり違和感無いかもしれませんが、CAMRならではの言い回しです。



 運動リソースは身体リソースと環境リソースがあり、人の運動システムの中では同等のものです。これもちょっと「ん?」と思うかもしれません。人体という閉じた運動システムではなく、環境もその人のその時の運動システムに含まれると考えます。環境の範囲(変な言い方ですが)は、その時々で変わります。



 身体リソースには柔軟性、筋力、持久力などがあります。これらは従来の言い方である、柔軟性=関節可動域、筋力=MMTで計る筋力と対応しそうですが、そうではありません。これまでが形での分類なのに対し、CAMRでは機能ごとにみます。これもちょっと「んん?」と思うかもしれません。重なるところはありますが。



 言葉では何となくわかっても、実際の動きの中で理解するにはちょっとコツがいるようです。私も時々、「んんん?」と思ってます。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



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ベルンシュタインを読む!(その8)

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今回は「ベルンシュタインを読む!(その8)」です。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆



ベルンシュタインを読む!(その8)2013/1/23
 レバーシステムを持った動物から生まれた2つのグループとは、すなわち脊椎動物と節足動物です。レバーシステムを駆使する戦略として、内骨格を選択したのが脊椎動物で、外骨格を選択したのが節足動物です。そしてこの戦略の違いが明暗を分けました。



 脊椎動物は節足動物に比べ、段違いの柔軟性を持っています。しかしその反面、節足動物が頑丈な鎧のおかげで、支持にほとんど筋力をつかわなくてすむのに対して、脊椎動物はじっと立っているだけでも筋活動が必要になります。



 さらに、鳴り物入りで登場した横紋筋ですが、実は以下の3つの弱点がありました。
①弾丸のように乱暴に収縮すること
②収縮の持続時間がきわめて短いこと
③収縮の強さを制御できないこと



 これらの弱点を克服するために、強縮と呼ばれる高頻度の連続した興奮性刺激による収縮形態を利用しなければならなかったり、収縮力を制御するために動員する運動単位の数を調節しなければなりませんでした。



 これらは脊椎動物にとってマイナスのように感じます。立っているだけでも筋活動が必要なのに、その筋ときたら、気難しいじゃじゃ馬のようにコントロールが難しい横紋筋なのです。しかし一見デメリットのように感じるこれらの特徴のおかげで、並外れた適応性と操作性を兼ね備えることが可能になったというのです。



 例えば代表的な弦楽器のギターとバイオリンを比べてみましょう。ギターにはフレットという区切りがついていて、初心者でも割と簡単に音程をキープできます。一方バイオリンにはフレットがなく、のっぺらぼうな板の上で演奏者のスキルによって音程をキープしなければなりません。フレットがない方が自由度が大きくコントロールが難しいのですが、熟練者にとってはその方が使い勝手が良いのだそうです。 …続く。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆



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