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治療方略について考える(その6)
治療方略:治療の目標設定とその目標達成のための計画と方策
こうして龍馬君は痛みの周辺の徒手療法に加えて、より広範囲の柔軟体操やストレッチ、そして腰椎のモビライゼーションなども治療に加えます。もちろんそれによって治療効果は明らかに良くなります。二郎さんが来院してくるのは週1回から2週に1回に減ったからです。痛みが発生するまでの期間が長くなっています。しかし・・・それでも二郎さんは2週に一度は腰痛の治療に通ってこられます。
龍馬君はより良い治療効果を求める向上心と、自分の問題点を受け入れる素直さを持っています。だからこそ、もっと良い効果が得られるように考え、努力します。そうして次のような結論に至ります。「2週に一度という周期で痛みが強くなってくるのは、きっと生活を送る中で周辺の軟部組織がその位の周期で硬くなるような状況にあるからだ。たとえば二郎さんは仕事で長時間同じ姿勢をとっている。そして運動習慣がなく、体を様々に動かしたり、多様な筋活動をすることがないのだ。だからその同じような状況で過ごすうちにいつも同じ身体の軟部組織に硬さが生じてしまうに違いない。だからこの人が置かれている状況自体を変えねばならないのだ!」
こうして龍馬君は次の段階に進みます。広範囲で多様な徒手療法に加え、各種の自己ストレッチや運動を含むホームワークを追加します。こうして二郎さんの通院の間隔は更に1ヶ月に1回と伸びます。
でも龍馬君はまだ満足できません。来院時に二郎さんに聞いてみます。「ホームワークはやっていますか?」「いやあ、できるだけやっているのですが、忙しくなるとついついやめてしまいます」
「なるほど!」と龍馬君はハタと気がつきます。そこで次のように二郎さんに言います。「実はですね、二郎さんの腰痛の原因は、長時間同じ姿勢でいること、あまり体を動かさないことが原因なのです。だから体が自然に同じ姿勢で固まって痛みの原因になるのです。運動しないので筋肉は細くなり、縮み、癒着してしまうのです。その結果、血流が悪くなり、関節の動きを悪くし、神経を圧迫したりもするのです。そしてどんどん腰椎を含む全身が悪くなっているのです。
実は僕にはもうこれ以上できることはありません。だからもし二郎さんが本気で腰痛を治したい、これからの人生を健康に過ごしたいのなら、二郎さん自身がやることを決めて実行していかなくてはなりません」
そうしてこれまでのホームワークに加え、仕事場での姿勢を変えたり、運動をする工夫や日常生活での運動習慣の取り入れ、椅子や照明などの環境設定の工夫等を二郎さんと話し合います。二郎さんも納得して、生活習慣全体の見直しを図ることに熱意を示されました。
こうしてついに二郎さんは来なくなりました。そんなある日、町で二郎さんと偶然出会います。「腰痛はどうですか?」と尋ねると「先生に言われたように歩行距離を伸ばしたり、階段を使ったり、仕事の合間にラジオ体操とストレッチをするようになって腰もすっかり良くなりました・・・あ、それに聞いてください!ある日股関節が痛くなったんですが、思いついて大股で歩くようにしたんです。そしたらそれまで痛かった股関節が楽になることを発見しました。運動って本当に大事ですね!」と明るく笑いましたとさ!めでたし、めでたし・・・・(その7に続く)
≧(´▽`)≦
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今回は「CAMRの旅お休み処 シーズン3 その3」です。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆
CAMRの旅お休み処 シーズン3 その3
「軌跡が決まるのは奇跡的?なんちゃって (^^;) ベルンシュタイン問題続きの続き」
秋山です。タイトルにこりすぎると、ろくなことはないのですが・・・。
その昔、私は養成校の教官をしていまして。その頃の悩みの種が「作業分析」の講義ノート作りでした。当時の教科書には、作業の一般的な分析をやれ、と載っていまして、社会的な意味や精神面への影響などとともに運動についても話さなければなりませんでした。
この作業を遂行するときにどんな動きが必要で、その動きのためにはどこの関節がどの方向にどれくらい動いて、その筋肉は・・・とやるのですが、考えれば考えるほどロボットみたいな動きになるし、使う筋肉も姿勢も入れれば結局全身か?ということになってしまいます。
学生さんに、「この工程の動きの関節可動範囲はこれでいいのですか」と質問されても、「うーん、良いと言えば良いような、それだけじゃないといえばないような」と何とも曖昧な返事で。(当時の皆さん、すみません) 机の上のコップを持つ、という時、人によって動きは違うし、肝心なのはコップまで手が届くことなのに、肩関節がどうとか肘が・・・というのは本筋ではないと思いながらも、共通の一つの答えを探しているようなものでした。
長々と思い出話をしてしまいました。
コップに手を伸ばした時、一度として同じ軌跡を通りません。一回ごとに通り道や速度は異なります。環境が同じでも同じ軌跡を通らないし、ましてや環境が異なればそれに応じた軌跡を通るでしょう。当たり前といえば当たり前ですが、正しいやり方を求めていると見落としてしまいます。
軌跡は異なるのですが、同じ結果を生み出すことができます。手がどう通っていってもコップをちゃんと持てる。この辺のことは、CAMRホームページ 人の運動変化の特徴 その2 異なった方法でいつも同じ結果を出すこと をご覧ください。
ふー、やっと先に進めるかな。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆
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治療方略について考える(その5)
治療方略:治療の目標設定とその目標達成のための計画と方策
さて、前回までで要素還元論の見方から「機械修理型」の治療方略が生まれたこと。その治療方略は一見して人と機械の似た構造を基に治療しようとしていること。しかし実際には機械と人の運動システムではまったく違った構造があり、それによって作動の性質もまったく異なっていることを説明してきました。
要素還元論が見た目のシステムの構造と機能を基に、問題のある要素に焦点を当てることに対して、システム論という視点は構造ではなくシステムの作動の性質に焦点を当てます。そうすると人の運動システムの作動の性質を基に、学校で習ったものとはまるっきり異なった治療方略が生まれてきます。
もっともシステム論と言っても、実は視点や対象、領域によって非常に沢山のものがあります。前シリーズ「システム論について話しましょう!」でも西尾の分類を基に、3種類のシステム論を紹介しました。
今回はその中から、「素朴なシステム論」の視点から見た運動システムの作動の性質を基にした治療原理と治療方略を紹介してみたいと思います。
「素朴なシステム論」とは臨床のセラピストが自然に行き着くシステム論の視点です。具体的には以下のエピソードを通して学んで行きましょう。
ある若いセラピストがいます。名前はとりあえず龍馬君としましょう。彼は学校で習った「機械修理型」の治療方略を引っ提げて臨床へ出ます。そしてしばらく患者さんの運動問題の解決に取り組みます。整形疾患などではこの治療方略で上手く解決する場合もあります。でも全体としては上手くいったり、行かなかったりを繰り返します。
そんなある日、二郎さんという腰痛の方と出会います。龍馬君は徒手療法の講習会で習ったように姿勢を見て、脊柱の可動域や周辺の軟部組織を触診し、筋力を評価し、結果痛み周辺の軟部組織が硬くなっていることを見つけます。そして適応のある徒手療法を実施します。二郎さんは「痛みが軽くなった。良くなるなんて初めてだ。先生、すごい!」と喜ばれます。そして龍馬君は「また痛くなったら来てください」と送り出します。表情には出しませんが、実は龍馬君も鼻高々です!「やはり学校で習った機械修理型の治療方略が上手く機能したな!」
ところが一週間後に二郎さんが、「腰がまた痛くなった!」と来られます。見ると前回と同じ様子で、また同じ徒手療法で治し、送り出します。しかしまた一週間後には・・・ このような経験を繰り返すうちに、龍馬君は次第に「痛み周辺の軟部組織の硬さ→痛み」というこの単純すぎる因果関係に疑問を持つようになります。龍馬君は次のように思います。「考えてみると筋膜で全身はつながっている。この方は姿勢も良くないし、腰以外の他の身体部位にも悪いところがあるに違いない。いろいろな要素が影響してるんだ。だからもっと広範囲に悪いところを探した方が良いな!」(その6へ続く)
≧(´▽`)≦
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今回は「CAMRの旅お休み処 シーズン3 その2」です。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆以下引用★☆★☆★☆★☆★☆★☆
CAMRの旅お休み処 シーズン3 その2
「自由度ってやつは・・・ ベルンシュタイン問題続き」
秋山です。前回がちょっと適当(良い意味ではなくてね)だったので、追加です。
「運動制御がなぜ難しいか」について、ベルンシュタインが挙げている一番目の問題点。以下、著書の「デクステリティ」から。
「私達は体肢と頭にある装置だけでも100近くの動き(自由度)があり、首や体幹の柔軟性を加えれば、その数はさらに膨大なものになる。歩いたり投げたりする時、いくつもの関節で異なる動作が同時に行われる。複雑な動作の要素一つ一つに注意を向け個別に制御するとしたら、膨大な注意を配分しなければならない。」
個々の筋肉と運動野が1対1で対応し、脳が一つ一つに指令を出しているという考え方では無理があるのではないか?ということでしょうね。
まだ続く・・・
★☆★☆★☆★☆★☆★☆引用終わり★☆★☆★☆★☆★☆★☆
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治療方略について考える(その4)
治療方略:治療の目標設定とその目標達成のための計画と方策
前回ではロボットは特定の機能を達成するために組み立てられたもので、できあがった段階から特定の機能達成のための最低限のメカニズムしか持っていないと説明しました。しゃべって歩くのなら、そのことしかできないのです。
一方人の運動システムは、驚くほど余剰なリソースと豊富な運動可能性を備えています。人にとって必要な課題はその時、その場でどんどん変わっていきます。移動し、隠れ、探し、捕まえ、加工し、食べるなどです。多様な課題を達成するためには、その時その場で常にその状況に相応しい新しい運動や機能を生み出す必要もあります。ロボットのように機能特定ではなく、その時々で必要な課題を達成するためには必要な機能を無限に生み出す能力を持っているのです。その可能性を生み出すための余剰なリソースであり、多様な運動可能性を最初から持っているわけです。
そして人の運動システムは機械とは構造も作動も違うのに、機械修理型の治療方略で良いのだろうかというのが大きな疑問なのです。
さて、「感覚入力は脳の栄養であり、それを通じて運動を学習する」というアイデアが広く受け入れられていますが、これも機械修理型の治療方略の考え方です。体は脳によってコントロールされている→脳性運動障害は脳が壊れて生じる。体は悪くない→だから、コンピュータのように脳のプログラムが健常者のものに書き換えられれば、からだも上手くコントロールされる、と考えているわけです。機械修理型はまず悪い部分や要素を見つけます。脳性運動障害では悪いのは脳だけで体は悪くない、脳だけを治すと考える訳です。
だからこのアプローチにおける運動学習というのは、コンピュータのプログラム入力のように、感覚入力によって筋活動のパターンや収縮のタイミングのプログラムを一から学ぶことだと考えています。そして臨床ではこの考えに基づいて毎日毎日「正しい」と思われる運動がセラビストと患者によって他動的に繰り返されたりします。
でも実際人の運動学習が、1つの運動を獲得するのに何度も何度も、あるいは何ヶ月も何年も同じ運動を繰り返さないと獲得できないような低性能なコンピュータなら、めまぐるしく変化する現実世界の中で、人類はとっくに滅びてしまったことでしょう。
更に大事なのはセラピストによって他動的に動かされる運動は、とても自律的な運動プログラムに変化するとは思えませんよね。他人によって体を動かされている状態を入力、経験しているだけだからです。
ロボットは壊れると自分で直すことができないので、人が直す必要があります。それで機械修理型の考え方だと、壊れた脳はセラピストが直接感覚入力で操作するというやり方に抵抗がないのかもしれません。
実際にはこの運動学習の考え方自体が、ロボットをモデルに考えられていて、現実の人の運動システムはまったく違う構造、作動であることに気がついていないのです。(システム論による神経系の機能や運動学習はまったく別のアイデアになります。いずれ紹介しようと思います)
この機械修理型の治療方略を基にしたアブローチは日本では50年以上の歴史がありますが、未だにマヒが治ったという報告がないのは、この考え方ややり方が間違っているかもしれないと考えた方が現実的です。
機械修理型の治療方略が特に脳性運動障害で上手くいかない理由は他にもありますが、ここではこれだけにしておきます。
一方整形分野などでは、機械修理型は実は上手く機能することもあります。もっとも上手くいく場合には一定の条件があります。その条件の説明はここでは脇道にそれてしまうので省きます。まあ上手くいったり、行かなかったりです。
さて、次回からは機械修理型ではなく、臨床で自然に発生する、多くのセラピストに自然に獲得される治療方略について紹介していきたいと思います。(その5に続く)